トランプ政権下で環境NGOが直面する「SLAPP訴訟」とは

記事のポイント


  1. 米ノースダコタ州の地方裁判所は、グリーンピースに約1000億円の損害賠償を命じた
  2. 米国でのパイプライン建設に対する抗議活動を巡って提起された
  3. グリーンピースは反対意見を封じ込めるための「SLAPP訴訟」だと主張する

国際環境NGOグリーンピース・インターナショナル(GPI、本部:オランダ・アムステルダム)はこのほど、米国でのパイプライン建設に対する抗議活動を巡って提起された訴訟に対し、「沈黙しない」との声明を発表した。GPIは、反対意見を封じ込めるための「SLAPP(スラップ)訴訟」だと主張し、本部のあるオランダでは訴訟の取り消しを求める手続きを進める。米ノースダコタ州の地方裁判所は約1000億円の損害賠償を命じたが、GPIは控訴する方針を示した。(オルタナ輪番編集長・吉田 広子)

グリーンピースをはじめ、環境団体や人権団体はSLAPP訴訟とたたかっている
グリーンピースをはじめ、環境団体や人権団体はSLAPP訴訟とたたかっている


■ SLAPP訴訟は「口封じ」が目的

SLAPP訴訟とは、企業や行政機関、自治体などが、批判的な発言や抗議活動を行う個人や団体を黙らせることを目的として提起する訴訟のことだ。「口封じ訴訟」「威圧訴訟」とも呼ばれる。

SLAPPは、英語の「Strategic Lawsuit Against Public Participation(市民参加を妨害するための戦略的訴訟)」の略語で、「平手打ち」を意味する「Slap(スラップ)」とかけている。

SLAPP訴訟の目的は、裁判で勝つことそのものではなく、相手に時間的・金銭的な負担を強いて発言を萎縮させることにある。標的となりやすいのは、不利な発言を行った個人や市民団体、ジャーナリストなどだ。こうした訴訟は、環境問題に対する抗議活動や、人権侵害の告発などに対して起こされる。

 先住民族らがパイプライン建設に反対

グリーンピースは、世界55以上の国・地域で活動するグローバルな環境団体だ。活動の独立性と中立性を保つため、企業や政府からの資金援助を受け付けず、世界300万人の個人の寄付で成り立っている。

一方、今回、GPIなどを訴えた米エナジー・トランスファー(ET)は、米国でパイプラインやエネルギーインフラを運営する大手エネルギー会社だ。

ET社は2016年、米中西部ノースダコタ州とイリノイ州を結ぶ石油パイプライン「ダコタ・アクセス・パイプライン(DAPL)」の建設を進めた。これに対し、先住民族のスタンディングロック・スー族らは、同パイプラインが唯一の水源や遺跡を破壊し、先住民の権利を侵害するとして、抗議活動を展開。2016年に環境影響評価のやり直しを求め、訴訟を起こした。

その結果、ワシントンの連邦裁判所は2020年3月、先住民の主張を認め、同計画を承認した米陸軍工兵司令部(USACE)に調査のやり直しを命ずる判決を下した。

しかし、一方で、ET社はこれらの抗議活動がGPIと米国内のグリーンピース法人によって扇動され、同社に巨額の損害を与えたとして訴訟を起こした。当初、同社はRICO法(組織犯罪規制法)に基づいて提訴したが、連邦裁判所は「証拠が必要な水準に達していない」として、訴えを棄却した。

その後、ET社はノースダコタ州の地方裁判所で新たな訴訟を提起。ノースダコタ州の陪審員は2025年3月、GPIなどに対し、ET社などに約6億6000万ドル(約1000億円)の損害賠償を支払うよう評決を下した。米国のグリーンピース法人は、裁判所が陪審員の評決を覆さなかった場合、控訴する方針だ。

GPIは、「環境影響に懸念を示す公開書簡を500以上の団体と連盟で投資家向けに提出したが、先住民が主導した抗議行動の現場に職員はいなかった。器物損壊や暴力行為を行った事実はない」と反論している。

GPIのクリスティン・キャスパー弁護士は、「この訴訟は、反対意見を封じ込めようとする『SLAPP訴訟』の典型的な事例だ。大手石油会社は私たちを黙らせることができると考えているが、私たちは決して『沈黙』することはない」と声明でコメントを出した。

(この続きは)
■ SLAPP訴訟を防ぐ法整備、欧州や米国で進む
■英や仏でSLAPP訴訟を撤回した事例も

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yoshida

吉田 広子(オルタナ輪番編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。2025年4月から現職。執筆記事一覧

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キーワード: #サステナビリティ

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