記事のポイント
- 人権NGOが主要テレビ局の人権施策に関するアンケート調査を実施
- 人権方針が実効性を伴っているかなどについて調査した
- HRNは「業界の対応は不十分」だと指摘した
国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN、東京・新宿)は、主要テレビ局を対象に実施した人権施策に関するアンケート調査の結果を公表した。各社が掲げる人権方針が実効性を伴っているかなどについて調査した。HRNは「業界の対応は不十分」だと指摘した。(オルタナ輪番編集長・吉田 広子)
HRNは、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に則した人権方針実施及びその実施を含む人権尊重の取り組みに関するアンケート調査を実施した。
背景には、国連ビジネスと人権作業部会が2024年にまとめた訪日調査報告書がある。同報告書は、日本のメディア・エンターテインメント業界について、「性的虐待の防止を含め、人権尊重責任を十分に果たしていない」と指摘した。
アンケートでは、人権方針が実効性を伴っているか、人権デューディリジェンス(企業が事業活動に伴う人権リスクを特定・予防・是正する取り組み)を実施しているかなどについて調査した。
主要テレビ局10社にアンケートを送り、テレビ朝日、NHK、TBS、フジテレビ、日本テレビ、毎日放送、朝日放送から回答があった。読売テレビと関西テレビは辞退し、テレビ東京は期限までに回答がなかった。
HRNのアンケート調査によれば、回答した7社すべてが「人権方針を策定している」と回答した。ただし、NHKについては人権方針という名称を使っていなかった。
「人権方針に実施体制やプロセス、取締役会の責任が明記されているか」については、7社中5社(NHK、TBS、フジテレビ、毎日放送、朝日放送テレビ)が「明記されていない」と回答。多くの局で、実施体制やガバナンスに関する明確な記載が欠けている実態が明らかになった。
「ビジネスパートナーに対して人権方針を説明し、尊重を求めているか」という設問に関しては、7社中4社(NHK、TBS、日本テレビ、毎日放送)が、出演者本人や所属事務所、番組制作会社に対して説明・尊重を求めていると回答した。
一方、広告会社、キャスティング会社、スポンサー、物品調達先などのサプライヤーにまで広げているのは、日本テレビ、TBS、毎日放送の3社にとどまった。テレビ朝日と朝日放送テレビはこの設問に未回答だった。
「企業活動による人権侵害に対する救済手続き(グリーバンス・メカニズム)はあるか」では、NHKとフジテレビの2社が「ない」と回答している。
HRNは調査結果について、「主要局では人権方針策定の動きがあるものの、自社を超えた人権への取り組みが極めて不十分だ」と総括した。特に、ビジネスパートナーに対する人権方針の周知徹底が不十分で、直接の取引先を超えて人権DDを実施している企業はわずか1社にとどまったと指摘している。
HRNは、日本政府に対して、人権侵害の救済手続きにアクセスできるように国内人権機関を設置することや、企業に対して人権デューディリジェンスの実施を義務づける法整備を進めることなどを求めた。