USスチール石炭高炉で爆発死亡事故: 非難の矛先は日鉄にも

記事のポイント


  1. 日本製鉄傘下のUSスチール工場で日本時間12日、爆発事故が発生し2人の作業員が死亡した
  2. 同工場は2025年だけで3回事故を起こし、そのうち、爆発事故はこれが2回目だ
  3. 日本製鉄は買収後早速、現地の労働安全問題と公衆衛生課題に直面している

米ペンシルベニア州クレアトンにあるUSスチール社のコークス炉で現地時間11日(日本時間12日)、爆発事故が発生した。2人の作業員が死亡し、少なくとも10人が負傷した。同工場は2025年だけでもすでに3回の事故を起こし、そのうち、爆発事故は今回が2度目だ。今年6月、約2兆円規模でUSスチール社を買収した日本製鉄は、工場の労働安全問題と、地域の公衆衛生課題に直面している。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

日本時間8月12日、USスチールのコークス炉で
爆発死亡事故が発生した
© Create Lab / Breathe Project

爆発事故は米ペンシルバニア州に位置するUSスチールのクレアトン工場の石炭ベースの高炉で、現地時間8月11日(日本時間12日)に発生した。

現場近くで作業をしていた建設作業員は地元メディアに対し、「雷のような爆発で、足場が揺れ、胸が震え、建物も揺れた。その後、製鉄所から黒い煙が立ち上るのを見て、何か悪いことが起きたと気付いた」とコメントした。

大きな爆発に続き、小規模な爆発も複数回発生し、近隣のコミュニティでも揺れが感じられる中で、地元アレゲニー郡当局は、住民に現場から離れるよう警告した。

■日鉄が「石炭延命」を約束した施設で死亡事故

モンバレー製鉄所の一部であるクレアトン工場は、1901年に建設された米国最大級のコークス工場だ。石炭を加熱し、高炉の主要な原料となるコークスを製造する。

モンバレー製鉄所の老朽化した施設はこれまでも、安全面と公衆衛生面での問題が指摘されてきた。2024年12月には、日本製鉄はUSスチール社の老朽化した石炭ベースの高炉の改修を約束したが、「石炭の延命」だとして地元住民や環境NGOらから批判が高まっていた。

参考記事:日本製鉄のUSスチール買収、問われる石炭依存ビジネスモデル
参考記事:日鉄、総会で脱炭素政策の矛盾問われる: 石炭使う高炉温存で
参考記事:USスチールの地元の環境・保健団体、日本製鉄との対話求める

国際気候NGOスティールウォッチは、今回の石炭施設での事故を受け、「石炭による製鉄を継続するという日本製鉄の指針に対し、大きな疑問を投げかけている」と、改めて日本製鉄の石炭脱却の必要性を訴えた。

■問われる労働安全:2025年に入って事故は3度目

USスチールのクレアトン工場で今回起きた事故は、2025年に入って3度目だ。

2025 年2月2日には、工場のバッテリーに問題が発生し、可燃性物質に引火し、聴覚に届く爆発音が煙突で発生した。2025 年6月2日から3日にかけては、汚染管理室の故障により、汚染管理装置が長時間にわたって停止した。これら2件の事故では、重傷者は確認されていないが、今回の事故では、少なくとも2人の作業員の死亡が確認された。

米ペンシルベニア州ピッツバーグに拠点を置く環境・保健団体ブリーズ・プロジェクトのマシュー・メハリック・エグゼクティブディレクターは、「本施設に関する問題は長年にわたり続いており、悲劇が繰り返されていることは大変遺憾だ」とコメントする。

「真の進展は、公共の健康と地域の再生が最優先事項として扱われる時にしか実現しない。約束を破り続け、短期的な対応に重点を置き続けた結果、コミュニティの健康被害と労働者の不安は依然として解決されないままだ」と、怒りと失望の意をあらわにした。

■公衆衛生対応の先送りは許されない

USスチール社が2020年以降、環境汚染に関して科された罰金は総額6400万ドル(約95億円)に上る。

これら設備による大気汚染は、地元アレゲニー郡で2020年から2022年の間、年間640~1373人の早期死亡につながったとの推定も出されているほどだ。

しかし、USスチール社は、罰金を支払ってはいるものの、その根本的な問題を解決するための措置をほとんど講じていない。

国際気候NGOスティールウォッチのアジア担当で、米ペンシルベニア州出身のロジャー・スミス氏は、「事故にあわれた従業員ならびにご家族、地域住民の方々に心よりお悔やみを申し上げる。USスチール社の爆発事故は、石炭を使用した生産の継続が、日本製鉄にとって大きなリスクであることを浮き彫りにしている」と指摘する。

「日本製鉄はすでにUSスチール社に対し、2028年末までの約110億ドル(約1.6兆円)に上る設備投資を約束した。この投資は労働者、地域社会の安全、そして気候を守るために使われなくてはならない」(同)

「今までの石炭依存のやり方では、払われる代償は甚大だ。日本製鉄は、USスチール社を買収したことで、周辺地域で深刻化する健康被害を軽減し、安全を守る責任を負った。同社は買収契約の一環として高炉のリライニング改修(高炉内部を覆う耐火レンガの摩耗や損傷を改修する作業)を約束したが、それは労働者と地域社会を危険にさらし続けることを意味する」(同)

「この事故が明らかにしたのは、老朽化する施設を脱炭素化し、適切なグリーン・トランジションを公約することが急務だということだ」とスミス氏は力を込めた。

■「違反を積み重ね、罰金をコストのように扱う」
■USスチールのロビー活動も明らかに
■非難の矛先は、日本製鉄の経営陣にも

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北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

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