記事のポイント
- 世界の科学者らが「森林火災の現状」に関する報告書をまとめた
- 2025年2月までの1年間の焼失面積は370万㎢超と、インドの国土より広かった
- 炭素を豊富に含む森林火災が増え、CO2排出量は過去20年の平均を1割上回った
世界の科学者らが、「森林火災の現状」に関する報告書をまとめた。2024年3月から2025年2月にかけて、世界で大規模な森林火災が発生し、CO2排出量は過去20年平均より1割多い80億トン超に達した。また同期間の土地の焼失面積は少なくとも370万㎢と、インドの国土面積を上回った。科学者らは人為的な気候変動によって、炭素を豊富に含む森林での火災の規模・強度が増していると警告する。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

世界の科学者らは2025年10月、過去1年間の世界の森林火災について分析した「ステート・オブ・ワイルドファイア(森林火災の現状)2024-2025」を公表した。報告書作成に関わった英イーストアングリア大学のマシュー・ジョーンズ博士は、「炭素を豊富に含む森林での火災の範囲と深刻さが増加している」と説明した。
報告書によると、2024年3月から2025年2月までの1年間で、世界では森林火災によって80億トン超のCO2を排出した。この数値は、2023年に記録を開始して以来6番目に高く、過去20年での平均を9%上回った。この上回った9%分の排出量だけでも、200カ国以上の化石燃料によるCO2排出量より多いと指摘した。
■1年間で1億人以上の生活・健康に影響した
生活や健康への被害も大きい。この1年間の森林火災は世界の1億人以上の人々に影響した。7カ国で200人以上が森林火災を直接の原因で死亡した。米カリフォルニア州の森林火災では、ロサンゼルスから避難した人の数だけで15万人以上に上った。
またブラジル、ボリビア、インド、カリフォルニアでは、大気汚染が、WHOの基準値を13~60倍上回るなどの公衆衛生の悪化も顕著だった。ロサンゼルスではこれまで、煙への曝露を原因とした400人以上の過剰死亡が報告されている。
また、これまで生涯に経験する可能性が低かったような極端な森林火災を、将来世代が経験する可能性も高まっていると指摘する。
例えばブラジル北東部では、1940年代に生まれた人は、2024年に同地域が経験した規模の森林火災を経験する確率は33~36%だが、今日生まれた赤ちゃんが同規模の森林火災を生涯に1度でも経験する確率は52~59%、少なくとも2度経験する確率は17~32%だという。
■影響を受けた森林クレジットは全体の18%に
経済的な損失も大きい。世界全体ではこの1年間、2150億ドル(約32.3兆円)相当の有形資産が被害に遭った。なかでもロサンゼルスの森林火災は、損害額は総計1400億ドル(約21.1兆円)、保険金支払額は400億ドル(約6兆円)に上り、史上最も損失被害額の大きい災害の一つとなった。
また森林によるカーボンクレジットも、過去最高となる全体の18%が影響を受け、特に南北アメリカで影響が大きかった。森林が吸収する炭素を排出量のオフセットに活用する森林クレジットについては、その永続性がリスクにさらされている、と指摘した。
■人為的な気候変動が焼失面積を25~35倍に
報告書は、この1年、特に極度な大規模森林火災に発展した米カリフォルニア州南部、ブラジル北東部のアマゾン地域、ボリビアのパンタナール湿原とチキターノ乾燥林、アフリカのコンゴ盆地の4カ所に焦点を当てた分析も公開した。
科学者らは、これら森林火災は、人為的な気候変動の結果として発生した可能性が高く、その影響がなかった場合に比べて、焼失面積が25~35倍に及んだと推定した。

(c) The State of Wildfire Project
■北米では山火事でのCO2排出量が平均値の2倍超に
■カリフォルニア森林火災の経済損失は約21兆円
■アマゾンの森林火災は、南米史上過去最高の排出に
■世界第2位の熱帯林、アフリカのコンゴ盆地の被害も大きく