「福島の甲状腺がんは過剰発生」――岡山大教授らが論文

岡山大学の津田敏秀教授らのチームが執筆した、福島県内での甲状腺がん発生に関する疫学論文が7日、国際的な疫学論文雑誌の電子版に掲載された。論文は、18才以下の福島県民を対象とした甲状腺スクリーニング検査の結果を分析し、甲状腺がんの過剰発生を指摘するもの。これを受けて津田教授は8日、都内で会見に臨み、今後予想される甲状腺がんの増加に備えて「考え方や情報発信のあり方を改めるべきだ」と訴えた。(オルタナ編集委員=斉藤円華)

■ 県の調査結果を分析

日本外国特派員協会で会見する津田敏秀・岡山大教授=8日

日本外国特派員協会で会見する津田敏秀・岡山大教授=8日

甲状腺がんは放射性ヨウ素の被ばくにより増加することが知られている。東電原発事故では他の放射性物質とともに大量の放射性ヨウ素が環境中に放出された。

論文名は「2011年から2014年の間に福島県の18才以下の県民から超音波エコーにより検出された甲状腺がん」。英文で、国際環境疫学会が発行する医学雑誌「エピデミオロジー(疫学)」に掲載されている。

この中で津田教授らは、福島県が18才以下の全県民を対象に行う甲状腺スクリーニング検査の、第2巡目における14年12月までの結果について疫学分析を実施した。分析手法は標準的なものであるという。

これによると、潜伏期間を4年として日本全国の年間発生率と比較した場合、中通り地域中部で発生率比(IRR)が50倍と最も高かった。これは100万人当たり605人の有病割合となる。甲状腺がんが検出されなかった県北東部の一部を除き、他の地域の発生率比も20~40倍だった。

チェルノブイリ原発事故では、ベラルーシの14才以下の子どもで事故の翌年から、数は少ないが甲状腺がんの増加が観察され、4年目以降に急増。津田氏は3年目までの増加を「少ない多発」とした上で「福島県と福島県立医科大学は、この(少ない)多発を認めないことで『多発はないはずだ』と説明するが、考え方や情報公開を急いで変える必要性がある」と訴えた。

さらに津田氏は「日本では年間100ミリシーベルト以下の被ばくによるがんは発生しない、または発生してもわからない、としか説明されない」と指摘。「若い人は放射線の影響が出やすいと教え、コストを掛けずに対策することは可能だ。線量が多い場所を探して滞在時間を短くすれば被ばくを減らせる。福島に住む人こそそうした知識が必要だ」と説いた。

■ 有病率比「過剰診断より1桁多い」

津田氏は、今回の論文発表が一部から「時期尚早だ」と指摘されていることについて「多くの海外の学者と議論したが、時期尚早と言われたことはない。『早く論文に』との声が多い。『なぜ(論文発表を)ゆっくりしているのか』との批判はあり得るだろう」と応じた。

また、これまでの甲状腺がん検出は過剰診断やスクリーニング効果によるものだ、との主張に対して津田氏は「過剰診断やスクリーニング効果を指摘する論文では、それらによる検出はせいぜい2~7倍に過ぎない。ところが福島では1桁多い過剰発生が見られる。スクリーニング効果はその一部にすぎない」と述べた。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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