alternative eyes: 振り子は左右に振れ続ける

alternative eyes(55)

オルタナ83 号の第一特集は、「サステナメガトレンド2026: ESG 攻防 『揺り戻しの揺り戻し』」です。

「揺り戻し」とは、ESG やDEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)などリベラルな取り組みの否定であり、「揺り戻しの揺り戻し」とは、その再肯定の意味を込めました。

DEI は多様性(ダイバーシティ)ある人材を組織に取り込み(インクルージョン)、その組織においては公正性(エクイティ)を発揮するという意味です。具体的にはジェンダーマイノリティ(性的少数者)や障がい者、外国人などの採用や活躍支援を指します。

ところが2025 年1 月に就任したトランプ大統領は、「DEI は逆差別である」と非難し、就任したその日のうちに「連邦政府は男性と女性の2つの性別だけを認め、変更はできない」とする大統領令を出しました。

同大統領の「アメリカ・ファースト」に代表される「自国第一主義」は、イタリアで政権与党「イタリアの同胞(FDI)」、ドイツの第2 党になった「ドイツのための選択肢(AfD)」、フランスの「国民連合(RN)」(マリーヌ・ルペン党首)など、枚挙に暇がありません(オルタナ82 号参照)。日本でも2025 年の参院選で、参政党が「日本人ファースト」を掲げて躍進しました。

ところが、そのトランプ大統領の支持率が明らかに下がってきました。CNN の最新世論調査(2025年11 月4 日発表)によると、同大統領の支持率は37%と2 期目就任後最低になったのに対し、不支持は63%と最高になりました。

その背景として、CNN は下記のように報じました。

「調査で『国の状況が悪くなっている』と回答したのは68%、『経済が悪くなった』と回答したのは72%、『経済と生活費の高騰を米国が直面する最大の課題』と回答したのが47%だった。そして61% が『トランプ氏の政策が国内の経済状況を悪化させた』と回答した」

「アメリカ・ファースト」は、過半の米国人を失望させたのです。2026 年11 月の中間選挙でも、共和党の劣勢が早くも指摘されています。ジョン・F・ケネディ元大統領の孫で、2026 年下院選挙に出馬するジャック・シュロスバーグ氏を期待の星とする向きもあります。

しかし、振り子はこれからも左右に振れ続きそうです。自国第一主義や「多様性の否定」は、国民の宗教観や、伝統的な考え方を背景にしていることが多いからです。トランプ大統領を後押ししたのはキリスト教福音派(エヴァンジェリカル)であり、日本における排外主義は、神道との結びつきを指摘する意見もあります。

こうした伝統的な考え方に加えて、その国における時代性や経済状況、貧富格差の拡大などの要素が相まって、振り子を押し続けます。それは他の国も同様です。

企業はどう取り組むべきでしょうか。私は、企業の規模や業種に関わらず、そのビジネスがサプライチェーンを含めてグローバルなものである以上は、常にESG やDEI を意識し続ける必要があると考えます。

多様性を否定してしまうと、必ず敵を作ります。どんな業種であれ、敵を想定したビジネスなど存在できないのです。多様性の否定は、企業にとって明らかなリスク要因です。

振り子の振れ幅は、政治の局面によっても変わります。イタリア政権与党を率いるジョルジャ・メローニ首相は就任後、排外主義的な主張から一転し、移民増加を容認する政策に変えました。政治が変わるからこそ、企業の一貫性が求められるのです。

森 摂(オルタナ代表取締役)

森 摂(オルタナ代表取締役)

株式会社オルタナ 代表取締役。東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。編集局流通経済部などを経て 1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在も代表取締役。前オルタナ編集長(2006-2025)。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。武蔵野大学大学院環境学研究科客員教授。武蔵野大学サステナビリティ研究所主任研究員。一般社団法人サステナ経営協会代表理事。日本自動車会議「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」選考委員。公益財団法人小林製薬青い鳥財団理事

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キーワード: #ESG

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