alternative eyes: 「地球に優しい」はもう止めよう

オルタナ72号の第一特集は「ウォッシュ監視 国連も行政も」です。記事にあるように、グリーンウォッシュ(環境やSDGs、ESGなどに配慮しているように偽ること)は「ソフトロー」から「ハードロー」の領域に移りつつあります。

ソフトロー「社会から(企業・組織に対する)期待や要請」であり、それに違反しても法的な制裁はありません。これに対して「ハードロー」は違反すると刑事罰や行政罰を受ける恐れがあります。

グリーンウォッシュはこれまで「批判」や「揶揄」の範疇ととられていましたが、近年、「揶揄だけでは済まない」事態になってきました。「生活者がその企業の製品を買わない」「その企業の株を買わない」だけでなく、「行政罰の対象になる」「訴訟を受ける」リスクが、海外ではすでに顕在化しています。

巷でよく聞く「地球に優しい」「環境に優しい」もその一つです。「地球に優しい」とは何か、という明確な定義がないままに、企業が広告や広報、マーケティングでこのフレーズを使っている例は珍しくありません。

2010年、元サッカー日本代表監督の岡田武史さんにインタビューした時、「人類が滅亡しても地球は残る。人類が地球を守る、地球に優しくというのはおこがましいです」と話していたのが印象的でした。

このように、耳障りが良いフレーズは世の中に多いものです。それに対して「おかしい」「怪しい」との意見がSNSを通じて共有され、それがいつか「炎上」という形になって現れることもあります。

今後は、科学的な根拠をもって、自社の環境やSDGs、ESGの戦略や取り組みを説明するという、当たり前の企業行動が求められます。

当社とオズマピーアールはこのほど、「SDGs意識調査」(企業のサステナ実務担当者138人と生活者1236人が対象)を共同で行いました(参照: 「SDGs疲れ」全世代に広がる、意識調査で明らかに)。それによると、全世代において、「SDGs疲れ」とも呼ぶべき現象が起きていることが分かりました。

生活者には「企業のSDGsの取り組みを知った時にどんな気持ちや行動の変化が起きたか」も聞きました。その結果、「その企業に好感を持った」(44%)、「その企業への信用が高まった」(37%)、「株式の購入を検討した」(14%)など、前向きの答えも多かったのです。

つまり、企業のステークホルダーは総じて、SDGsやESGのい取り組みを前向きに評価する傾向が浮き彫りになりました。ただし、「グリーンウォッシュ」のような背信行為があると、その企業への評価は大きく損なわれます。

さらに怖いのは、「社員からの不信任」です。日本ノハム協会の筒井隆司専務理事による寄稿の通り、ウォッシュがもたらす最も深刻なダメージは、「社員たちが経営者や会社自体に失望したり、疑念や反感を抱き始めたり、従業員エンゲージメントが下がること」でしょう。

特に「Z世代」など若い社員たちは会社へのロイヤルティ(忠誠心)が上の世代に比べて低いとされます。どんなに高給をもらっていても、会社や上司が筋の通らないことをすれば、会社を離れていきます。

企業の不祥事は毎週のように報じられていますが、最もダメージを受けるのは社員たちです。「地球に優しい」ではなく、地球環境に配慮するとともに、社会や社員などすべてのステークホルダーに配慮する経営が求められています。

森 摂(オルタナ編集長)

森 摂(オルタナ編集長)

株式会社オルタナ代表取締役社長・「オルタナ」編集長 武蔵野大学大学院環境学研究科客員教授。大阪星光学院高校、東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。編集局流通経済部などを経て 1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。環境省「グッドライフアワード」実行委員、環境省「地域循環共生圏づくりプラットフォーム有識者会議」委員、一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事、日本自動車会議「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」選考委員ほか。

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キーワード: #SDGs

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