オルタナ73号をお届けします。第一特集は「DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)は競争力の源泉」です。D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)という言葉はこの数年で「DEI」へと進化しました。
「エクイティ」とは公正性や正義を意味します。ジェンダーや人種、国籍、障がいの有無などにかかわらず、多様な人材を、公正性をもって個別の支援をしながら企業や自組織の中に取り込み、活躍してもらうことです。
この原稿を書いている2023年6月9日、第211回通常国会では「LGBT理解増進法案」が衆院内閣委で可決されました。おそらく今国会で成立するでしょう。
この法案ではLGBT(Q)の方たちについて、「差別は許されない」という文言が「不当な差別はあってはならない」に、「性自認」という言葉を「ジェンダーアイデンティティ」に変えました。これに対して、多くのLGBTQ支援団体が反発しています。
同様にLGBTQを巡る確執が、米フロリダ州のデサンティス州知事と、ウォルト・ディズニー社の間で起きています。いわゆる「ゲイと言うな州法」を巡る争いです。
日本でもジェンダー問題を巡っては、自民党保守層の意見が強く、それが理解増進法案の修正に反映されたとされます。ジェンダーを巡る確執は米国でも少なくありません。上記のフロリダ問題だけでく、全米各地で「反LGBTQ州法案」が相次いで成立し、その数は75以上に達しました。
ただし、その米国では22年12月、同性婚の権利を連邦レベルで擁護する「結婚尊重法案」が成立しました。これにより、米国の全州で、同性婚も異人種間も結婚を合法と認めることを法律で義務付けたのです。
翻って日本ではどうでしょうか。福岡地裁は6月8日、「同性婚を認めない現行制度は違憲」であるとの判断を示しました。一連の5つの裁判のうち、福岡、札幌、名古屋地裁では「違憲」、東京地裁は「違憲状態」と判断しました。
日本がダイバーシティで遅れていることは、論を待ちません。元OECD東京センター所長の村上由美子氏は「世界は日本より2周早く進んでいる」と指摘します(「日本はDEIの伸びしろが多い」)。ただし、村上氏は「日本はDEIの『伸びしろ』が多い」とも強調しました。
遅れた分は、取り戻せばよいのです。世界で初めて同性婚を合法化したのはオランダですが、それは01年のことです。その後、日本を除くG7各国が追随しました。わずか20年の間に、世界の潮流が変わったのです。
DEIの遅れを最も早く取り戻すのは、政府(行政)でも司法でもなく、企業でしょう。「キヤノンショック/女性役員ゼロの弁明は時代遅れ」の記事にもある通り、女性取締役の登用は、企業にとって急務であり、必須です。
これを怠ると、株主総会で代表取締役が選任されないだけでなく、投資の対象から外される可能性すらあるからです。これからの数年で、日本企業の取締役会のジェンダー比率は大きく変わるでしょう。
今国会では、入管法改正案も成立しました。今後、難民申請中でも送還可能になります。これにも関係者からはさまざまな異論があります。日本社会が真の意味でのDEIを実現するには相当の時間が掛かりそうですが、その旗手は企業だと考えています。