alternative eyes: 「志」と「良心」とサステナ経営

オルタナ74号をお届けします。今号の第一特集は「サステナ経営浸透 完全マニュアル」です。企業のサ
ステナビリティ担当者は実感しておられると思いますが、サステナ経営の最大の難所は「社内浸透」です。

第一特集は、企業経営者、サステナ担当だけでなく、多くのビジネスパーソンの皆さんのヒントになればと思い、多くの事例を入れて解説しました。

ところで、味の素が最近発行した「ASVレポート2023」(統合報告書)で、「パーパス」を「志」と訳しました。おそらく日本企業で初めての事例だと思います。パーパスは受験英語では「目的」と訳しますが、近年のサステナ経営の文脈では「存在意義」と訳すことが多いです。

ちなみに2017年ごろ、パーパスを「存在意義」と初めて訳したのは私ではないかと記憶しています(異論がある方はご連絡ください)。「志」という言葉は私も好きな言葉で、オルタナのタグラインとして何年か使っていました。ただ、そこに悩みもありました。「志」は「青くさい」「綺麗ごとに過ぎない」というイメージも世の中にはあったからです。

時計の針を16年前の2007年3月に戻します。私は、オルタナ創刊号の第一特集の見出しで悩んでいました。「環境・健康・社会貢献(CSR)─他とは違う51社」と題して、海外と国内のトップランナー企業51社を紹介しました。

問題はメインの見出しです。なぜこうした企業が他社と違うのか。何が経営を変えたのか。考え抜いた末に付けたのが、「良心が経営を変えた」という主見出しでした。その後、「志」という言葉もオルタナのタグラインに取り入れました。

それから何年かして、国連が責任投資原則(2006年)で提唱した「ESG」という概念が日本でも浸透し始め、「社会課題を解決することで自らの企業価値を高める」という考えが広がってきました。SDGsも同様です。

「ESGやSDGsで企業は儲けてよい」「むしろリターンを期待して、ESGに取り組もう」というメッセージが広がり、私も、一時は、リターンを重視した記事を書いたこともありました。

ただ、この数年、改めて「志」「良心」の大切さを再認識するに至りました。最近の企業不祥事でも顕著ですが、行き過ぎた利益の追求だけでなく、「志」や「良心」の欠如が企業経営をむしばむ事例が増えています。大切な企業理念を「青くさい」「綺麗ごと」と馬鹿にしていると、必ず不祥事のしっぺ返しが来ます。

もう一点大事なのは、特に若い社員たちの意識の変化です。彼ら彼女らは、企業に対する忠誠心(ロイヤルティ)が低いだけでなく、差別や不正に敏感で、会社に不信感を持てばすぐに辞めてしまいます。新卒の3割が3年以内に離職する事実が物語っています。

社員たちが気持ちよく働ける職場を提供してこそ、企業の成長も期待できます。「志」を共有することが、社員のプライドにつながり、グレーゾーンが多いビジネス環境の中で、やって良いことと悪いことの区別がつき、不祥事の防止につながります。

今号では、「先義後利」という創業理念を受け継ぐ、J.フロント リテイリングの好本達也社長のインタビューも掲載しました。ご高覧下さい。

森 摂(オルタナ編集長)

森 摂(オルタナ編集長)

株式会社オルタナ代表取締役社長・「オルタナ」編集長 武蔵野大学大学院環境学研究科客員教授。大阪星光学院高校、東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。編集局流通経済部などを経て 1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。環境省「グッドライフアワード」実行委員、環境省「地域循環共生圏づくりプラットフォーム有識者会議」委員、一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事、日本自動車会議「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」選考委員ほか。

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キーワード: #サステナビリティ

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