富士フイルム、インドネシアでの孤児支援活動が社会を動かす

記事のポイント


  1. 富士フイルムインドネシアの孤児支援活動が同国で社会ムーブメントに発展している
  2. 孤児院を訪問しチェキで孤児の写真を撮り、成長の記録として贈る取り組みだ
  3. 同国の著名アーティストや政府からも注目され現地社員の働きがいにつながっている

富士フイルムのインドネシア現地法人が始めた草の根の孤児支援活動が、同国で社会ムーブメントに発展している。孤児院を訪問し、インスタントカメラ「チェキ」で孤児たちの写真を撮り、成長の記録として贈る取り組みだ。インドネシアの著名アーティストらも活動に賛同したことを機に同国内で広く知られ、ついに政府も動き始めた。インドネシア現地社員の誇りや働きがいも高まり、現法へのインターン希望者が続出している。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

富士フイルム・インドネシアの孤児支援活動が今、インドネシアで社会ムーブメントを起こしている
写真右は、富士フイルム・インドネシアの山本真郷さん

■深刻な孤児の問題に光を当てる

UNICEFの最新データによると、世界には1億5300万人もの孤児がいる。

インドネシアでは、約8000軒の孤児院が登録され、そこで暮らす孤児の数は50万人というのが正式な統計だ。しかしインドネシア国立ガジャマダ大学は、非登録施設も含めると同国の孤児の数は推計440万人に上り、インドネシアは世界でも最も孤児の数が多い国だとの見解を示す。

富士フイルムインドネシアの山本真郷(まさと)プレジデントダイレクターは、「会社の周りにも孤児院があり、孤児はすごく多い印象だ。親との死別、生活費が稼げない、虐待など、様々な理由で、親元で暮らせない子どもたちがいる」と、オルタナの取材に答えた。

「孤児の問題はインドネシアが抱える大きな社会問題だが、あまり課題としてスポットライトが当たっていなかった。インドネシア現地法人として、この国の社会問題と向き合い、貢献できることはないかと考えていた時に、現地社員からも孤児の支援活動の提案が出てきた」

孤児の多くは写真を撮影してもらった経験もない。家族写真もなければ、本人の成長過程も記録として残されないまま暮らしている。

「一企業で解決できるはずもない大きな社会課題だが、身の丈に合った形でできる支援として、孤児院を訪問し、『チェキ』で子どもたちの写真を残す活動を始めた」(山本さん)という。

同社のインスタントカメラ「instax(通称『チェキ』)」なら、子どもたちは現物の写真を目の前で受け取れる。余白には日付やコメントも書きこむことが可能だ。そこで2022年、「チェキ」で写真を撮って贈るだけでなく、子どもたちと一緒に写真をデコレーションするなどのワークショップも行う支援活動を始めた。

■「利他」の行為が、結果として自らの力に

当時、山本さんには、もう一つの思いがあった。

「自分が着任した2021年はコロナのさなか。オンラインミーティングで顔を見せない人もいて、社員に元気がなかった。コロナ収束が見えてきても依然、世界は不確実性に満ちていた中で、私としては社員みんなで取り組めることをしたいと思っていた」という。

実際この支援活動は、孤児院の子どもたちだけでなく、インドネシア現法で働く社員たちに大きな力を与えた。

山本さんは、「孤児院に行くと、子どもたちを支援しようという、もともとの発想が恥ずかしく思えるほど、自分たちが逆に救われているような感覚を覚えた」と話すが、その感覚は、訪問した社員たちも同じように抱いていたという。

社内で活動への参加を一切強制しなかったのに、多くの社員がこの活動に「参加したい」と申し出た。ジャカルタオフィスは全員が、インドネシア全土でも社員の85%以上が参加した。そして社員の口から、知り合いや取引先など、社外にもこの取り組みが伝わった。

現地メディアにも取り上げられ、インドネシアの著名アーティストからも「協力したい」との声が届き始めた。

■グループパーパスが活動を後押しする

草の根の活動を社会ムーブメントに押し上げようとの思いが芽生えたきっかけは、2024年に富士フイルムグループがグループパーパスを制定したことだ。同社のパーパスは「地球上の笑顔の回数を増やしていく。」というものだ。

「このパーパスがものすごく腹に落ちた」と山本さんは当時を回想する。孤児支援活動に携わっていたメンバーたちとも、「この(孤児支援)活動は、笑顔になれる機会を提供するだけでなく、自分たちも笑顔をもらっているよね」と、パーパスを体現する取り組みであることを確認し合った。

そこから、笑顔の連鎖を広げる新たなプロジェクト「instaxnesia(インスタックスネシア)」が始動した。このプロジェクト名は、「チェキ」の正式ブランド名「instax(インスタックス)」と、「インドネシア」を掛け合わせた。

■著名アーティストの賛同で社会ムーブメントに

孤児支援活動に賛同する同国の著名アーティスト35人を巻き込み、彼らの作品や日常を「チェキ」でおさめたアートブック(写真集)を制作した。そこから得られた利益を孤児院の支援に充てる。

アートブック「instaxnesia」は200ページオールカラーで
店頭価格は28万ルピア(約2600円)

35人のアーティストも多様な顔ぶれだ。障がいを持ったアーティスト、環境保全に取り組むアーティスト、ヒジャブをかぶったヘビーメタルグループなど、インドネシアの伝統芸能から建築、映像、ストリートアートなど、さまざまなサブカルチャー分野で活動する人たちが協力した。彼らのフォロワー数を合算すると3000万人近くに上る。

また著名人との連携で孤児の問題が多くの人の知るところになっても、真の意味で課題を解決するには政府の関与が不可欠だ。そこで、インドネシアのクリエイティブに光を当てる書籍として、当時のサンディアガ観光大臣から書籍に寄稿(テスティモニー)を得た。

インドネシア最大の出版社・グラメディアも協力に名乗り出て、正式な出版・流通に乗せてインドネシア全土で販売した。書店の中には展示ブースを設置したところもあり、アートブックの購入が、孤児の支援につながることを丁寧に伝えた。

アートブック販売記念の発表会をメディアが広く取り上げた。200ページオールカラーのアートブック「instaxnesia」は完売し、今は重版に向けた準備も進める。また賛同したアーティストらとともに、各地の書店などでワークショップやセミナーを開催することで、支援の輪を広げる取り組みが続いている。

■政府からも協力依頼が舞い込む
■「アスピレーション(志)」が大事

有料会員限定コンテンツ

こちらのコンテンツをご覧いただくには

有料会員登録が必要です。

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

執筆記事一覧

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。