SDGsアウトサイド・イン: 富士フイルム「健診文化を世界に」

記事のポイント


  1. 富士フイルムは健康診断センター「NURA」をモンゴルに展開する
  2. 「NURA」は、高精細な技術で病気の早期発見を目指す施設だ
  3. 社会課題を起点にしたビジネス創出「SDGsアウトサイド・イン」の好例だ

富士フイルムは9月17日、これまでインド国内で3拠点展開した同社の健康診断センター「NURA(ニューラ)」を初めてモンゴルに展開する。「NURA」は、同社の高精細な診断画像処理技術とAI技術を融合することで、がんなどの早期発見を目指す施設だ。社会課題を起点にしたビジネス創出「SDGsアウトサイド・イン」の好例と言えそうだ。(オルタナ編集部・北村佳代子)

モンゴル・ウランバートルの「NURA」

「アウトサイド・イン」とは、SDGsの公式文書に記載されている用語だ。既存の事業活動を起点にするのではなく、社会課題を起点にして、事業のあるべき姿・製品・サービスを考えていくアプローチをいう。

SDGs「アウトサイド・イン」の概念図

日本で一般的な健康診断や人間ドックは、多くの国・地域ではまだ普及していない。富士フイルムは、強みである画像処理技術を活かし、アウトサイド・イン思考で世界の医療課題の解決を図る。

取り組みの一つが、新興国を中心に展開する健康診断センター「NURA」だ。同社のCTやマンモグラフィー、内視鏡などの医療機器と、AIを活用した医療ITシステムを導入して、がん検診を中心とした日本式の高品質な健診サービスを提供する。

きっかけは社員の素朴な疑問

「NURA」誕生の発端は、11年前にさかのぼる。当時ドバイ(UAE)に駐在していた社員が、現地同僚らの出身国の多くに定期健診の習慣がないことを知ったのがきっかけだ。

現在同社メディカルシステム事業部モダリティーソリューション部で新規ビジネス統括を務める守田正治氏は、当時の衝撃をこう振り返る。

「率直にアンフェアだと思った。誰にとっても健康は大切なのに」

ドバイでは現地法人を立ち上げるために、アラブ系、インド系、アフリカ系などいろいろな国の出身者を守田氏自らが採用していた。

「僕にとって彼らは家族みたいな存在だ。いろいろ聞くと、がん検診はおろか、血液検査すらしたことがない仲間もいた。健診サービスを提供する施設すら十分に整備されていない国が多いことに問題意識を持った」

守田氏は、日本のような総合的な健診をとても大事な文化だと再認識した上で、「そうした健診を彼らも受けられるようにしてあげたいと思った」という。

後藤禎一現社長も「おもしろいじゃないか。やってみろ」

当時、写真フィルム業界はデジタル化の波を受け、フィルム需要が2000年にピークを迎えたのち、競合のコダック社が2012年に経営破たんするなど、市場縮小の難局に直面していた。

富士フイルムも生き残りを賭けた「業態変換」に迫られ、2004年に大胆な改革を進めていた。当時、古森重隆社長は社員に向け次のように語ったという。

「現状をトヨタにたとえれば、自動車がなくなるようなものだ。そうした事態に直面している」

富士フイルムは創業2年目からレントゲンフィルムを提供するなど、医療領域への足掛かりはあった。

健診が普及すれば、そこに同社の医療機器も導入できると考え、守田氏は各国政府にかけあった。しかし、満足な治療すら十分に行き届いていない国・地域では、予防医療に割けるリソースは極めて限定的だった。

「こうなったら、自分たちでやるか。まずはスモールスタートで良い。新興国での健診サービスは社会課題の解決にもなるし、需要があればそれはビジネスになる」

当時の上司・後藤禎一現社長も「おもしろいじゃないか。チャレンジングだけどやってみろ」と背中を押した。

「絶えず挑戦することは、当社のカルチャーだ。事業化に向けて、社内の説得に苦労することは全くなかった。社会性と経済性の二つが両立するサステナブルな事業として後押ししてもらえた」と守田氏は振り返る。

守田正治・富士フイルムメディカルシステム事業部
モダリティーソリューション部新規ビジネス統括


[この後の記事内容]

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北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

オルタナ副編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部。

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