編集長コラム) 「本業を通じたCSR活動」の限界

マイケル・ポーターのCSV(共通価値の創造)が日本に上陸して数年たったが、その論調は「寄付やボランティア」を「単なる社会貢献」、あるいは「古い形のCSR」と位置づけ、否定する傾向にある。

「一時的な企業収益に頼った寄付は、持続的ではない。企業が社会に持続的な価値を提供するためにも、本業を通じたCSR/CSVが重要である」という文脈だ。

CSR/CSVに取り組むことで企業収益が増えれば、経営者や株主の理解も得やすいし、まさに持続的になる。

もちろん、この文脈自体は正しいし、筆者も否定するつもりはないが、「本業を通じたCSR」だけで本当に十分なのだろうか。

ここまで書いて、ピーター・ドラッカーの「マネジメント」(1973)の一節を思い出した。

「社会的責任の問題は、企業、病院、大学にとって、二つの領域において生ずる。第一に、自らの活動が社会に対して与える影響から生ずる。第二に、自らの活動とは関わりなく社会自体の問題として生ずる。いずれも、組織が必然的に社会や地域のなかの存在であるがゆえに、マネジメントにとって重大な関心事たらざるをえない」

ここで大事なのは「第二の領域」で、これは寄付やボランティアなどの「慈善」(フィランソロピー)活動と同義であろう。そのうち法人によるフィランソロピー活動が日本ではこの数年、停滞しているのだ。

いま「本業を通じたCSR/CSV活動」に真剣に取り組んでいる企業には申し訳ないが、是非この「第二の領域」も重要であることを再認識してほしい。

ところでドラッカーの「マネジメント」はビジネスパーソンなら誰しも一度は読んだことがある名著だが、その9章のうち、第4章はまるごと「社会的責任」に充てられている。CSRに関心がある方は是非、一読して頂きたい。

40年前の著作であることを考えると、その先進性に改めて驚嘆するとともに、実は社会的責任の本質はこの数十年、変わっていないのではないか、とも受け止められる。企業には改めて、第一と第二の、両方の領域での活躍を期待したい。
(オルタナ編集長・森 摂)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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