長期ビジョンの不在と低スコア

本業界において、上位企業であっても点数が伸び悩んだ主な原因には、上に示したとおり、「長期的なビジョン」の不在が上げられます。残念ながら、本業界では、パリ協定の目指す「2度」目標と整合した長期的な視点に立つ削減目標を設定している企業がありません。それが他の項目にも波及し、他業種に比べ、点数が低い結果につながってしまいました。

なお、日本生活協同組合連合会(生協)は、本プロジェクトに定義する「企業」にあたらないため評価の対象とはしていませんが、日本を代表する小売りチェーンの担い手であることから、今回の小売業の企業との比較を行う目的で、評価を行ないました。

その結果、『1.目標および実績』が37.0点、『2.情報開示』が25.7点となり、総合得点は62.7点となりました。

生協は2050年に向けて「事業で使う電力を100%再生可能エネルギーでまかない、事業からのCO2排出を限りなくゼロに近づける」ことを目指しており、「2度」目標と整合した長期的なビジョンを掲げている事業者と見なすことができます。

その他の項目にはやや不十分な点もあり、総スコアは60点台前半にとどまっていますが、他の企業も生協の事例を参考に、「脱炭素社会を目指す」というビジョンを持つことができると思わせる内容となっています。

世界の平均気温の上昇を2度未満に抑えるためには、「Science Based Targets」イニシアチブに参画するなどして、科学的な知見に基づく、長期的な視点に立った取り組みが求められます。過去3業種で、高スコアとなった企業の多くは長期目標を掲げていました。

2度目標と整合した「長期的なビジョン」(長期目標)を掲げている企業が本業界にはありませんが、これを上位企業が中心となって設定することで、業界全体の牽引役となることが期待されます。

ライフサイクルでの排出削減と再生可能エネルギーの利用

そうした長期的な視点の下で、ライフサイクルでの排出削減を行い、再生可能エネルギーの利用を積極的に進めることが求められます。

今回の評価対象30社のうち、小売業15社に絞ってみると、「ライフサイクル全体での排出量把握・開示」を5社(33%)が行い、過去の3業種(電気機器19%、輸送用機器28%、食料品13%)よりも高い数値を示しています。これは、自社の事業範囲の上流・下流を含めたライフサイクル全体での排出削減に取り組みやすい条件を有していることを意味します。

『小売業・卸売業』編では、定量的な再エネの導入目標を掲げていたのは1社にとどまったものの(ヤマダ電機)、全30社の内10社が、再エネの活用に関する定量的なデータを開示していました。

これに、『電気機器』編、『輸送用機器』編、『食料品』編を合わせた4業種の全126社で見ると、再エネ目標を掲げていたのは計8社である一方、60社が再エネの活用に関する定量的なデータを開示しており、温暖化対策としての再エネの重要性が高まりつつあることが分かりました。

環境コミュニケーションにも課題

そのほかには、本業界全体の特徴として、環境報告書類を発行している企業が少ないことも指摘しておかなくてはいけません。今回、環境報告書(CSR報告書などを含む)を正式に作成していたのは、全56社のうちわずか22社でした(注)。

過去3業種では、9割前後の企業が環境報告書類を作成していたことを考えれば、その作成が4割にも満たない低水準にあるのは「環境コミュニケーション」の観点から大きな不足があると言わなくてはなりません。

近年、世界的にESG投資(環境:Environment、社会:Social、企業統治:Governanceに配慮している企業を選んで行なう投資)の潮流が強まる中、CSRや環境の取り組みに関する非財務情報の適切な開示(統合報告書の発行など)が求められています。

国際統合報告評議会(IIRC)という団体が、統合報告書を作成する際に考慮すべき原則などを示していますが、これに則った形で統合報告書として発行することが重要です。従来のアニュアルレポートに、非財務情報を一部付け足すことで、統合報告書の代わりとするような方法は避けなくてはなりません。今回、そうした方法をとり、環境報告書類の発行を取り止めてしまっているケースも見られました。

本業界は、企業の社会的責任として環境報告書類や統合報告書の作成を行い、公表することで、社会との「環境コミュニケーション」を活発に行う必要があります。これが、企業による温室効果ガス削減の取り組みの第一歩ともなるからです。

WWFは、業界ごとに異なる、こうした温暖化対策の実情を明らかにしながら、産業界全体の進むべき方向性について、積極的に提言を続けていきます。

注)22社以外では、8社がアニュアルレポート(コーポレートレポート含む)を環境省などのガイドラインを参考に作成しているとしていることから、評価対象に加え、計30社を今回は評価した。

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