日本の難民認定、42人は不十分

法務省は3月27日、「平成30年における難民認定者数等について」を発表した。これを受け、認定NPO法人難民支援協会(東京・千代田)は「難民認定数は十分なものとは言えない」との声明を発表。その全文を紹介する。(オルタナ編集部)

難民認定数は、42人となりました。前年よりも多くの人が難民として認定されたことについては、歓迎したいと思います。しかし、昨年度(2017年7月から2018年6月)72か国・637人からの相談を受けた当会の経験に基づくと、2018年の難民認定数は依然として十分なものとは言えません。また、人道配慮による在留特別許可を受けた人の数は40人と、昨年より5人減、難民申請者数が同水準だった2016年と比べると半減以下です。庇護を受けた人の総数を見ても、その数は未だ不十分です。

難民申請者数は、10,493人となりました。2010年以来初の減少です。これは、2018年1月に法務省入国管理局より発表された「難民認定制度の運用の更なる見直し(※1)」によって、難民申請者の就労や在留を制限する政策が実施されたことによるものとの指摘がありますが(※2)、その他の要因も含め、どのような事情で申請が減少したのか検証が必要です。

当会では、現在の日本の難民認定制度には難民保護の観点から重要な課題があり、それが不十分な認定数の原因になっていると考えています。法務省自らが定めた適切な保護のための取り組みの推進と、申請中の最低限の生活保障を含めた制度改善を改めて求めます。

■難民認定制度の何が問題か
難民認定制度の目的は、難民を適切に保護することにあります。しかし、次のような課題は国内外の専門機関などから長年指摘されていますが、改善はなく、日本に逃れてきた難民が適切に保護されている状況とはいいがたいと考えます。

・難民認定業務を担う組織の非独立性: 出入国管理と難民認定業務を同一の機関が担っており、保護ではなく管理に主眼が置かれている

・立証責任の問題: 立証責任が過度に難民側に課せられている

・本国政府からの「特定」や「個別のおそれ」の要求:申請者が本国政府に個別に把握されていたことの証明が求められるが、申請者本人が客観的な証拠をもってそれを示すのは困難である

・手続きの透明性・適正性確保の問題: 審査基準の明確化、一次審査のインタビューへの代理人の立会い、通訳人の適正性の確保、インタビューの可視化、弁明の機会の確保などがなされていない

法務省においても、改善に向けた検討はなされています。第5次出入国管理基本計画と、難民認定制度運用の見直し状況検証のための有識者会議の開催です。

まず、2015年の第5次出入国管理基本計画(※3)においては、その柱の一つとして「難民の適正かつ迅速な庇護の推進」を挙げています。そこでは、「真に庇護すべき者を迅速かつ確実に庇護するため」として、以下の取り組みが示されています。

・保護の対象の明確化: 特に「新しい形態の迫害(※国家ではない主体による迫害、性的マイノリティであることを理由とした迫害のおそれ等、日本政府がこれまで難民として認定してこなかった迫害のことを指す)」の申し立てについて、保護を図るための仕組みを構築する

・制度の透明性の向上: 認定判断の明確化のための仕組みを構築していくとともに、認定・不認定事例の公表を拡充する

・難民認定行政に係る体制の強化: 出身国情報等の収集・分析体制の充実や、難民調査官の専門性の向上などを行う

しかし、出身国情報担当官の設置や認定・不認定事例の公表の拡充など一部に進展はあるものの、上記のほとんどが実現していません。例えば、新しい形態の迫害からの「保護を図るための仕組み」づくりについては、「検討段階」と法務省は報告しています(※4)。

また、法務省入国管理局が設置した「難民認定制度運用の見直し状況検証のための有識者会議(※5)」は、2017年の検証結果において、「(検討を委嘱された案件について)振分けが明らかに不適切・不適当と断定できる案件は見当たらない」としつつも、

・結論にいたる審査記録が明確でないこと
・難民の蓋然性を判断するための出身国情報が十分であったか判然としない事例があること
・複数回申請の理由について十分な弁明又は主張の機会が与えられたかどうかが不明であること

など、難民認定手続きに関する重要な課題を指摘しています。しかし、指摘された課題に対してどう対応するか、その施策は未だ公表されていません。

透明性の確保や体制の強化など、日本の難民認定制度にはこれらの重要な課題があるため、庇護が十分に与えられているとは言い難い状況です。法務省は基本計画に書かれた内容を実行し、これまで指摘されてきた課題を解消し、難民の適切な保護に向けた取り組みを向上させるべきだと考えます。

難民申請者の暮らしを守る視点を
難民認定制度の改善は、難民申請者の生きる手段をいかに確保するかという視点なしには語れません。2018年は、前述の「難民認定制度の運用の更なる見直し」の影響で難民申請者の処遇が悪化した年でもありました。法務省が濫用ではないと判断した難民申請者であっても、一部は在留制限を受けて在留資格を持たないまま審査の結果を待つこととなっています。在留制限を受けない場合でも、申請から8か月間は就労が許されず、この間は自治体に登録されないために国民健康保険を含めた行政サービスを受けることができません。

このような難民申請者の暮らしの悪化は、法務省が発表する数字を見るだけでは知ることができません。また、ここには含まれていませんが、難民申請者の収容の問題もあります。難民として保護されるべき人が、申請中の生活も含めて適切に保護される制度となることを求めます。

注釈
※1 法務省「難民認定制度の更なる運用の見直しについて」(2018年1月12日)
※2 法務省「難民認定制度の運用の更なる見直し後の状況について」(2018年8月31日)
※3 法務省「第五次出入国管理基本計画の策定について」(2015年9月15日)
※4 内閣参質190第90号「 参議院議員石橋通宏君提出難民認定状況に関する質問に対する答弁書」(2016年4月1日)
内閣参質193第146号「 参議院議員石橋通宏君提出難民認定状況に関する質問に対する答弁書」(2017年6月27日)
内閣参質196第140号「 参議院議員石橋通宏君提出我が国における難民認定の状況に関する質問に対する答弁書」 (2018年6月26日)
※5 法務省入国管理局「難民認定制度運用の見直し状況に関する検証結果について」

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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