米環境保護局(EPA)は6月19日、オバマ前大統領が調印した「クリーンパワープラン(CPP)」を覆し、新たに規制の緩い「アフォーダブルクリーンエナジールール(ACE)」を制定した。トランプ大統領の意向を反映したものとされ、これにより米国の二酸化炭素の排出量は増加すると懸念される。米国内外の環境保護団体は一斉に反発し、政府に対して訴訟を起こす動きも出ている。(寺町幸枝)
今回のEPAの規制緩和を報じたニュース解説メディアのVOXニュースによると、CPPの規定では、石炭火力発電所からの脱却を目的に、二酸化炭素の排出量について2005年のレベル以下である32%削減することを、2030年までに目指すという厳しい姿勢で挑んでいた。
しかし新たなACEルールでは、あくまでもガイドラインということに加え、CPP同様温室効果ガスの排出量についての記述はあるものの、その規制内容は緩く、2030年までに1100万トンの排出に下げるかあるいは、0.7%から1.5%の間にするといった内容だ。
公共政策に関する情報収集や研究を得意とするシンクタンクのロディアム・グループの調べ(注1)によると、3年連続減少傾向にあった米国の温室効果ガスの排出量は、2018年から急激に増加傾向にあり、その量は3.4%に上るという。
背景には古くなった石炭火力発電所が閉鎖され、各電力部門から出される温室効果ガスの排出量が1.9%増えた。その他排出量の1番の原因である自動車などの乗り物の排出量や、工業部門からの排出に大きな変化はない。しかし昨冬の異常気象による寒さも一要因と考えられている。
一方で、脱炭素化戦略に関する進歩が見られないことも、この問題の原因と考えらえる。すでにパリ協定のゴールに対して、大幅な遅れを取っている米国は、今回の規制緩和でさらにそのルートから大きく外れると懸念される。
なおトランプ政権は、今回の規制により19の州で、二酸化硫黄といった汚染物質や、窒素酸化物の排出量が増えることをすでに予想しており、大気汚染が進むことはほぼ確実と言われている。
PM2.5と呼ばれる大気汚染は、早死を引き起こすことは周知の事実で、CPPの下では年間1500から3600人の早期死亡者の発生を防ぐことができる計算になっていた。だが新ルールのもとでは、年間470-1400人の早期死亡が引き起こされると言われている(注2)。
こうした状況を踏まえ、世界規模で活動する環境保全団体のWWFの代表カーター・ロバーツ氏は、本件に対して「新しいルールは、地球を汚すエネルギー施設が、汚染し続けることを許すものだ。連邦エネルギー政策を過去に葬り去り、次世代に、手をつけられていない気候変動という、大きな犠牲を背負わせることになる」と語り、議会において党派を超えてこの問題に対処するため、早急に米国の包括的な環境対策の基礎固めをすると決意表明している。
またアクティビスト企業として知られ、環境保護を推進する世界的アウトドアブランド「パタゴニア」のローズ・マカリオCEOは、「今日、EPAによるクリーンパワープランの廃止を決めたことで、トランプ政権は私たちコミュニティの健康に危害をもたらし続けている」と新ルールに対して痛烈な批判を寄せたプレスリリースを即日発表した。
■素早い動き