持続可能経営の先駆者 米インターフェイス物語 (上)

これをきっかけにアンダーソン氏はエコロジーについて研究を始める。企業の社会的責任(CSR)が声高に叫ばれる以前のことで、参考になる書物もそれほどなかった時代だ。

アンダーソン氏は環境問題研究家ポール・ホーケンの著作『エコロジー・オブ・コマース』に出会う。今では環境問題の古典となっている同書に触発された氏は、生産の軸足をリサイクルに移し、「ミッション・ゼロ」(2020年までに、二酸化炭素など環境に悪影響を与えるものをゼロにする)を目標に掲げた経営に舵を切った。

「当時レイは60歳でした。大英断だったと思いますよ(笑)」(ミーザンCSO)

筆者は2005年にアンダーソン氏をインタビューした。エコロジーと企業経営をどう結びつければいいのか、多くの日本人経営者が首をひねっていた時代だった。インタビューのテーマは「サステナビリティとは何か」というものだった。

ホーケンの著作を引きながら、アンダーソン氏がサステナビリティ経営について熱心に説明してくれたのを昨日のことのように思い出す。インタビューの最後にアンダーソン氏はこう付け加えた。

「経営というのはアイスホッケーのようなものだ(氏は学生時代ホッケーの名選手だった)。パック(ホッケーの玉)がどこに飛んでくるか、正確に予想することが大事だ。私はサステナビリティ経営こそが、次の時代にパックが飛んでくる方向だと確信しているよ」

「サーキュラーエコノミー」という言葉さえ存在しなかったころの話だ。慧眼である。

残念なことに、アンダーソン氏は2011年に世を去ったが、氏が掲げたミッション・ゼロは、2020年を目前にほぼ達成された。「現在、生産過程で生まれる廃棄物を92%まで削減することに成功しました」(ミーザンCSO)。

それと同時に、当初は実現不可能にも思えた挑戦の積み重ねが、インターフェイスをサステナビリティ経営のリーダー企業に押し上げた。

その結果、新たな目標を設定する必要が生まれた。ミーガン氏がイニシアティブを取り、従業員や顧客の意見を取り入れ、2016年に新スローガン「クライメイト・テイクバック」(正常な気候を取り戻そう)を掲げた。

「25年前は社内だけの目標を設定していればよかったのですが、今は業界をリードする企業として世界に訴えるゴールが必要になりました。それがクライメイト・テイクバックです」

ミッション・ゼロが主に技術的なゴールだったのに対し、クライメイト・テイクバックでは、フィリピンやカメルーンの海に投棄された漁網を回収しリサイクルする「ネットワークス」など、地域社会への貢献をプロジェクトに盛り込み、社会との関わりの要素を強めている。

この記事の続き、「米インターフェイス」物語(中)はこちらになります。

エリン・ミーザンCSO
インターフェイス社チーフ・サステイナビリティ・オフィサー。レイ・アンダーソンの思想を継承し、25年以上前に掲げられた積極的なサステナビリティのビジョンを現代に生かし、「クライメイト・テイクバック」 策定のリーダーシップを取る。同社は、世界全体に良い影響を与えるため、地球環境に悪影響を及ぼすものは排除するという考え方を貫く。

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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