ベトナムで建設予定のブンアン第2石炭火力発電所をめぐり、融資銀行や出資者が相次いで撤退の方針を示し、日本の事業者や銀行が取り残される状況となっている。英スタンダード・チャータード銀行が12月17日、石炭投融資の段階的な取りやめ方針を表明し、同日事業出資者のCLPホールディングス(香港)も脱石炭方針を発表。残るのは事業出資者の三菱商事と、融資を予定する三菱UFJなど官民邦銀5行、シンガポールのDBS銀行のみだ。(オルタナ編集部=堀理雄)
国際環境NGOのFoE Japanや350.org Japanなど5団体は12月20日、日本の三菱商事や官民金融機関に投融資撤退を求める共同声明を発表。「2017年~2019年の間、日本の3メガバンクによる石炭火力発電事業者への融資額は世界トップ3を占めていることが明らかになるなど 、日本の官民は世界の脱石炭の流れと完全に逆行している」と厳しく批判した。
■「企業にとっても大きなリスク」
ブンアン第2石炭火力発電所(以下ブンアン2)は、ベトナム中北部ハティン県ハイフォン村に2020~2024年の建設事業が予定されている1200メガワット規模の発電所で、総事業費は約22億米ドル(約2400億円)だ。
事業実施者は、三菱商事とCLPホールディングスが共同出資する合弁会社OneEnergy社。融資者としては、日本の公的金融機関である国際協力銀行(JBIC)と、三菱UFJ、みずほ、三井住友、三井住友信託の民間4行、シンガポールのDBS銀行、オーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC)、英国のスタンダード・チャータード銀行が見込まれていた。
このうち、シンガポール第2の大手オーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC)は、2019年4月に脱石炭方針を発表した後11月にブンアン2からの撤退が報じられた。
また12月17日、英スタンダード・チャータード銀行はパリ協定の目標達成に向け、気候変動関連財務情報ディスクロージャー(TCFD)レポートを公開。石炭火力発電事業への投融資撤退方針のもと、ブンアン2からの融資引き上げを発表した。
さらに同日、事業出資者として三菱商事と合弁を組んでいた香港に拠点を置く電力会社CLPホールディングスが、脱石炭方針を含む気候変動方針「Climate Vision 2050」の改定を発表。石炭事業への新規投資を行わず、既存の全ての石炭関連資産を2050年までに段階的にゼロにするとした。
CLPの同方針に照らせばブンアン2からの撤退を意味しており、事業者としては三菱商事が残されることになる。三菱商事は2018年10月に「ESGデータブック」の改訂版を発表し、新規の石炭火力発電の開発を行わない方針を発表しているが、すでに開発に着手した案件は例外としている。
アジアの脱石炭の向けた金融機関への働きかけを進める豪環境団体 Market Forcesのジュリアン・ヴィンセント代表は「香港CLP社が計画中の石炭火力からの撤退を決定する一方、三菱商事は、(ブンアン2など)ベトナム2事業は同社の新石炭投資方針の例外としている。言行不一致の現状を正し、新たな石炭火力発電事業を行わないとする同社方針の誠実さを取り戻すのは今だ」と述べている。