企業のルーツや社風に見る「本物」の精神
『近江商人哲学』(山本昌仁・講談社現代新書)では、年間300万人近くが訪れるというラ・コリーナ近江八幡を運営するなど、菓子業界で快進撃をつづける江戸時代創業の「たねや」の経営哲学における、社会的価値との親和性の重要性が語られています。特にその思想のルーツであるのは、近江商人の「三方よし」です。
江戸時代に各地に散らばった近江商人の成功の鍵は、その地域の人々の信頼を得ることだったとあります。
たねやも長期的な観点と地域性を重視し、その地の植生にあった木を植え続けるなど、地域の発展を考えた事業活動を行っており、それは単なる社会貢献ではなく、たねやのアイデンティティーであることが分かります。
創業500年の時を紡ぐ同業の「虎屋」は、その500年史において、江戸時代に不拡大の方針をとったにも関わらず、戦後デパート出店で急拡大した際にブランド力が低下し、いち早く出店政策を見直し、「最高級の最高の和菓子屋」を堅持したことが、現在への生き残りの明暗を分けたことが記されています。
また、虎屋に同じく京都に本社を置くグローバルな計測機器メーカーである「堀場製作所」は、創業者の理念を「おもしろおかしく」という社是に結実させ、それが挑戦を尊ぶ社風を醸成しているとのことです。
京都には多くの老舗がありますが、「一見さんお断り」の文化は、その店の理念を理解してもらえるお客様と長くお付き合いをしたいという価値観であり、急激な成長よりも、信頼に基づく細くとも長い経営が尊ばれるとのことです。
そうした地域性を継承した同社の統合報告も、時代の波に右往左往しない、地に足の着いた読みごたえのある仕上がりになっています。勿論、激変する環境下、課題も多くあると思いますが、今後の展開や、創立70年に刊行される(かどうかわかりませんが)社史も楽しみです。
これら歴史を重視する企業の共通点は「本物を尊ぶ」ということです。時間をかけずに急成長することがもてはやされる時代ですが、今こそ時間をかけて築いてきた本物を求める精神、地中深くまで根を張り、変化に対応していく地力を読み取れるのがその企業の歴史であり、社史ではないでしょうか。
変化が必要な時代だからこそ過去に学ぶ