「歌声でつなぐ平和への想い」(三浦光仁)

佐藤しのぶさんが昨年9月に急逝されました。61歳の若さです。

しばらく彼女のCDがかけられませんでした。少し時間が経ってこの歌のことを語ることができるようになりました。特別なスピーカー(PA127)でこの特別なCDを皆さんと一緒に聞いてみたいと思います。

PA用スピーカー・PA127

世界的ソプラノ歌手、佐藤しのぶさんがエムズシステムのショールームにいらっしゃったのは5年前のことです。

チェルノブイリの被害にあった甲状腺がんの子どもたちを慰問に行ったベラルーシで、佐藤さんは「歌うこと」の意味を知らされたと言います。

「この子たちに、世界には美しいものが溢れているということを知らせてください」

病棟で働く人々にそう言われて、心の中に小さな灯が点りました。

それから十数年後、彼女は作詞家のなかにし礼さんに電話をして反核の歌を作ってと依頼します。

なかにしさんは「覚悟はできているの」と念を押しますが、佐藤さんの信念は少しも揺るぎません。

2011年、歌が完成し、発表会をするばかりのタイミングで東日本大震災が起こりました。歌はお蔵入りです。

それから2年半。この歌を眠らせてはいけないと思い立ち、日本全国でのコンサートツアーを企画します。

佐藤さんは生まれてこの方、マイクの前で歌ったことがありません。必要ないのです。

美しくもたっぷりとした素晴らしい声の持ち主ですから当然でしょう。ただこの歌は、オペラの唱法で発声すると、歌詞が伝わりにくい。

この歌だけは生まれて初めてマイクを通し、きちんと歌詞を伝えたい。

それにしても今どきのPAスピーカーでは、歌詞も、心も伝えきれない。何か良い手段はないかしらとまわりの人たちに相談していたところ、その思いが通じてある人の耳に入りました。

彼はすぐに佐藤さんをエムズシステムのショールームに連れてきました。佐藤さんはエムズシステムのスピーカーに感激、感動、共振してくださり、コンサート用の特製PAスピーカーの誕生となったのです。

この「リメンバー ヒロシマナガサキ」という歌のプレス発表会が日本プレスセンターで行われ、私も参加しました。

1時間前には小泉純一郎元首相の反原発の記者会見が開かれたその場所で、佐藤しのぶさんの歌が発表されたのです。

その会見で佐藤さんは実際歌ってはいません。歌詞を手話にして表情豊かに表現するのですが、声は出していません。

エムズシステムのスピーカーからその歌は流れているのですが、会場に詰めかけた多くの人々は、佐藤さんがその場で歌っていると信じ切っていました。質問に立った記者の方が、感動のあまり声を詰まらせるというシーンもありました。

日本プレスセンターの会場で歌が流れたのも、涙が流れたのも初めてのことではないでしょうか。

意図せずスピーカーによる「演奏家もいる演奏会」のようなことが実現してしまったのです。

このCDを制作されたプロデューサーと佐藤しのぶさんの遺志をつなぐ「演奏家のいない演奏会」を企画しようと相談し始めたところです。

「リメンバー ヒロシマナガサキ」と歌う佐藤さんの声を絶やしてはいけないという想いで。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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