米国:新型コロナが「ファッション」の世界を変える

新型コロナウイルスに100万人以上が感染、死者も7万人近い米国で、「ファッションで新たな自分を表現する」動きが生まれた。医療専門家は、「新型コロナで人生が思うように行かないという不安は、人々に強いストレスを与える」と指摘するが、自己表現としてのファッションが、ストレスを取り除くきっかけになり得るという。ロックダウン生活で、服の好みが変わった人も増えており、新型コロナはファッション面でも大きな変化をもたらしそうだ。(寺町幸枝)

■ファッションは外出自粛中のメンタルセラピー

米N B Cニュースが、外出自粛中でもこれまで通りのメイクやファッションを楽しむ人たちを例に挙げ、「服装で自分のアイデンティティをつなぎ合わせている」と話す人たちを取り上げた。ブルックリン在住のマシュー・ボン・ニーダさんは、「先のことを考えると、気分の浮き沈みがある中で、朝起きて、服を着てメイクをすることが、唯一平常心を保つ方法」と話す。

またビジネスマンのマット・カルデカットさんは、朝仕事着としてボタンダウンシャツとジーンズにソックスという出立で、リモートワークに対応するという。さらに仕事後には、すぐにパジャマを着るわけではなく、あえてTシャツに着替えている理由を、「出来るだけルーティーンを継続することで、同じ空間で生活していても、仕事とプライベートのメリハリがつけられる」と話す。

行動心理学者のキャロリン・メア氏は、人生のコントロールができないという不安は、人々に強いストレスを与える要因の一つと話す。そして、自己表現としてのファッションが、ストレスを取り除くきっかけになっているという。

■スウェットパンツが爆発的人気に

一方で、ロックダウン生活でファッションの好みが変わった人も増えている。これまでは時間がなくてメイクに時間をとっていなかったアマンダ・ブレナンさんは、時間の余裕ができた今、これまで以上にメイクに時間を取って、オンライン会議などに出るようになったという。

さらにアマンダさんは、ソーシャルメディア通じてこの動きが伝染していると話す。自分だけでなく周囲の友人たちも同様にメイクをすることで自己表現する様子を見ることが、自分のモチベーションの増加にも繋がっているという。

一方で、この数ヶ月ですっかり家着の代表格となったのがスウェットパンツだ。マスクと同じくらい需要が高まっているというスウェットパンツは、ファッション誌「V O G U E」の名物編集長であるアナ・ウィンター氏が、インスタグラムで着用したことでも、その注目度が高いことがわかる。

オンラインメディアの「Marker」によると、アクティブウエアブランドの「Vouri(ヴァウリ)」は、スウェットパンツの売り上げが、昨年対比1,100% と、異常な伸びを示していることを報道した。アパレル業界全体の3月の売り上げは、多くのノンエッセンシャルビジネスの閉鎖の影響で、50%下がっているものの、スウェットパンツ単体の全米市場では今年の2−4月の間で、79%の伸びを示しているというのだ。

スポーツウエアの「チャンピオン」は、1919年から続くスポーツウエアの老舗中に老舗。チャンピオンのスウェットパンツは、15ドル〜50ドル(1600〜5300円)と手頃で、オンラインでの販売が、やはり数倍の伸びを示しているという。

こうした流れを考えると、「ファッション」が人間の営みの基本である「衣食住」と切っても切れない関係であることを感じざるを得ない。誰かが作り上げた「トレンド」に踊らされて人気になった衣服=ファッション以上に、社会的な制約が、ファッションという世界にさらに大きな影響を与えることを、ここ数ヶ月の間で感じさせられている人は多いはずだ。

アクティブウエアの需要が、今後どのように変わっていくかはさておき、あれほどアジア人のマスク着用を不思議がっていた欧米各国の人々にとって、今やマスクは関心の的だ。まるでおしゃれを楽しむかのように、つけ心地が良く、さらにファッションセンスの光るマスクは飛ぶように売れている。デザイン性の高いマスクを販売する日本のサイトにも、海外から注文が入っているという。

米国のマスク事情。ファッションへのこだわりや、自己主張の手段として使われているケースも見受けられる(C)Elvert Barnes

一枚のマスク選びに、その人のファッションへのこだわりが見え隠れするのだ。マスク着用がしばらく必須となる社会的制約の中で、ファッションの矛先も、変化し続ける。

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