「志」を求める若者たち(7)ゲームで楽しくエコを啓発= マイアース・プロジェクト =

「地球環境保護」と言われてもピンと来ない。だったら子どもでも気軽に楽しめるカードゲームでエコ啓発をしてみよう。そんな志からオリジナルのゲー ムを開発し、商品化した学生たちがいる。そんな彼らのエコ啓発の戦略とは。(聞き手・今一生)

マイアース・プロジェクト

岡崎雄太
合同会社マイアース・プロジェクト代表社員、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科1年
横山一樹
合同会社マイアース・プロジェクト代表社員、東京大学大学院新領域創成科学研究科科1年
岡部佳文
合同会社マイアース・プロジェクト代表社員、大日本印刷株式会社事業開発企画室エキスパート
(09年3月末時点)

本誌オルタナ13号 P44からの続き

――「マイアース」のカードは、どうやって事業化にまで至ったのでしょうか。

横山  岡崎は、カードゲームをエクセルでとりあえず作っていたんですね。私は雑誌を作るサークルにいたので、イラストレーターなど使ってそれをデ ザインする所から始めました。そして、児童館など子どもが集まる施設で子どもたちに遊んでみてもらいました。キャンパスの近くの児童館にお願いしました。

岡崎 児童館に連絡する前に、大学生の研究仲間などに遊んでもらっていたんです。その頃から「マイアース」って呼ばれていたと思います。ある女の子 がそう名付けてから。

――その時、学業や、企業に就職するなど、他の進路は考えていなかったのですか。

横山 3年の夏には就職活動などもしていました。

岡崎 先輩の紹介で、さまざまなつてがつながって、起業への道が開けたんです。 横山 途中では、カードゲームというツールが最適かどうかにも悩んでいました。オンラインゲームなど、他の表現方法もあるのではないか、と。

岡崎 学部3年の時は、悩んでいました。横山が学内のビジネスアイデアコンテストで優勝し、それが自信となりました。3年の秋、子どもたちに実際に やらせてみないうちに結論は出せないな、ということになりました。

――3年の夏の段階ではまだ、アイデア段階だったんですね。いろいろな選択肢を検討していて悩んだ時期なんでしょうか。

横山 そうですね。コンテスト自体も、研究会の一課題として提出したという消極的なものでした。

岡崎 お互いが所属している異なる研究会に、それぞれが別々の機会で発表し、フィードバックをもらっていた時期です。一丸となってマイアース・プロ ジェクトをしているというよりは、一つのコンセプト「エンターテイメントで環境問題の新しい伝え方を考える」を共有して、それを別々の機会で活かしていた んです。

――4年生になったら就職も目前の問題になりますよね。起業につながった経緯とは。

横山 ビジネスアイデアコンテストでの評価が再出発のきっかけでした。そのときの実物としての完成度は、他のコンテスト出場者のアイデアと比べても そんなに高くなかったのですが、コンセプトやテーマの新しさが評価されました。そこで、これからやっていく価値があるなと。それが3年の夏ですね。

岡崎 実際のゲームは、一カ月ごとに内容が変わっていた時期です。もうはったりですね。言ったことをこれからやっていこうという。学校のカラープリ ンタでA4の用紙に9枚面付けしたカードを印刷して、それをはさみで切って、という時期でした。その手作り感丸出しのカードを、机にばらばらと並べたもの を子どもが見たときの反応がものすごかったんです。 カードを一心不乱にあさる姿で、「これはいけるんじゃないか」とプロジェクトの可能性を再確認できました。これって子どもにきちんと「届いてる」んじゃな いか!という。やる気が沸きますね。

岡部 起業する前に、半年間、プランの実現可能性を検討する期間がありました。さらにその前に、大日本印刷(DNP)内で何度も3人でプランをプレ ゼンしました。まず、子どもがこんなにはまっているカードゲームとは何か、説明するのが大変でした。彼らが所属する研究会の教授にもご協力いただきまし た。どんな世代に受け入れられたとしても、カードゲームの醍醐味は、山札と呼ばれる、ゲームで使うカードの束を自分で取捨選択できるところにあるんです。

岡崎 面接では、肝心の実物をちょうどかぶってしまったイベントで使用していて、プレゼン時に実物が無かった、という失敗もありました。そういった反省を ふまえて、子どもが実際に遊んで熱中している様子を映像化したものを紹介したことも、評価されたポイントですね。

横山 その面接が決着したのが2007年の11月。

岡崎:実際に商品として出す前に、2007年12月のエコプロダクツ2007に、アルファ版のカードをつくって子どもたちに使ってもらった。それが 大盛況でした。

岡部 2007年の11月にDNPの審査が通って、イベントに間に合わせるためにすぐ試作作りを開始しました。

横山 エコプロダクツでのブースは本当に小さいものだったのですが、そこに人が押し寄せてくれて。 岡崎 その評価を持って、市販化、会社設立への動きが始まりました。2008年の7月7日に会社ができて、8月にカードを市販したので、イベント用に開発 したアルファ版を市販版にするための期間が次のステップです。

――2008年の春には卒業して、このプロジェクトやろうということで決意が固まるんですね。

岡部 会社になる3カ月前くらいから、法人形態を検討して、最終的には合同会社にしたのですが、NPO法人や株式会社などの形態も検討していました。事業 の立ち上げは不安定なので、二人には大学院に入っておくことが法人設立の条件と伝えました。

――合同会社での仕組みはどんなものですか。

岡部 二人の学生個人と、DNPの三者が社員、という形です。私はDNPからの業務執行者という位置付けで、会社にかかわっています。株式会社では 出資の割合に応じて意思決定、利益配分がなされますが、合同会社はその働きに応じて定款で自由に決められるんですね。

岡崎 出資額は5010万です。DNPが5000万円で、私と横山で5万円ずつ。

――商品は「マイアース」の一つだけですが、事業内容はどのようなものですか。

横山 3人で販売、広告、すべて行っています。DNPには、代理店のような形でかかわってもらっています。

――今後の目標を聞かせてください。

横山 今、カードゲームで環境問題をとやっていますが、さまざまな子どもたちに楽しんでもらいたい。遊戯王などとカードゲームという市場で競うのではな く、子どもに地球環境に主体的になってもらえる、最高峰の環境教育のツールとしてのマイアースです。世代超えて、いくつになって遊んでも面白い、サステナ ブルなものにしていく必要はあるかもしれませんが、僕はトレーディングカードゲームが人類普遍のツールにならなくてもいいかなと思っています。自分が 40、50代になって、子どもと一緒にカードはやるけど、自分が楽しんでいるところをイメージできないので。

――この事業は突破口で、これから発展してさまざまなエコアクションをやっていくようなイメージでしょうか。

横山 単純にこのカードの可能性を考えたときに、世代を超えて受け入れられているWIIやDSというインターフェースと比べて、僕がまだ普遍的なイ メージができていないんですね。

岡崎 横山はリアリストなんだと思います。僕が理想論を言って暴走するんですが。試作品を作っているとき、僕はいつも色々な概念を盛り込み過ぎるので。別 々の役割がありますね。広げすぎたものを僕が作ったときに、それが実際どう見えるのかを言えるのが横山なんではないでしょうか。

――いいバランスなんですね。今後、このプロジェクトをきっかけいにできることはもっと増えていきそうですね。そのとき、「環境問題を身近に感じられるよ うにする」のがミッションなのか、それとも、「どんな子どもにも遊んでもらえるカードゲームづくり」がミッションなのでしょうか。

横山 そういう意味ではちょっとこう、カードゲーム作りの岡崎と、社会問題に対する意識への入り口づくり、としている私が別々に働いている感じです ね。

――そういう仕組みそのものを新たに開発するところに、横山さんの関心があるんですね。

横山 そうですね。違う世代には違う表現の仕方があると思うし。環境だけじゃなくて、高齢化、少子化、貧困なども。持続可能性の部分で、まず環境に注目し たということですね。

岡部 二人の目指す航路が少し違うところが面白さですね。

――それでは最後に、最近わくわくしていることは何ですか。

岡崎 カードゲームの中で行われている思考が、きっと他のどんなものにも達成できないほどの深みと広がりがあるんじゃないか、と思えていることで す。つまり、地球環境っていうのは一つ一つのかけらが相互につながって、システムになっています。それを「本」というインターフェースで表したらそれは一 列の思考になってしまいます。そういったフローの流れではなく、「カードゲーム」ではフィードバックループなどもダイレクトに表せる力があると思います。 一般的には「子どもの間で流行っている遊び」としてのカードゲームですが、実は情報を編集し、再生するインターフェースの最先端を行っているのではないか とも感じています。カードゲームのプロプレーヤーの方のインタビューコラムなどを読むと、そういう感じますね。

――メディアリテラシーの力がつくということでしょうか。そこにある情報だけで何かを決め付けず、「他にもあるのでは」と疑い、自分で考えることをするよ うになるかもしれませんね。

横山 けれど、着実に知名度は上がっています。企業からのイベント受注が増えていることもその一例です。

岡崎 今後時間をかけて、自分たちの手が及ぶ範囲を超えて、自律的なメディアとして花開いてほしいですね。

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