2020年、大統領選とともに米国社会を大きく揺るがせたのがBLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命も大切)運動だった。一般市民だけでなく、企業もこうした社会の変化に対応したメッセージを出すことが増えてきた。その中で、米国や日本で、広告を通じて人権や個の大切さを訴えかけた企業の筆頭格がナイキだ。なぜ同社は社会に訴えかけるのか。(山中 緑・米ポートランド)

今年、白人警官によるジョージ・フロイド氏の殺害をきっかけに、盛り上がりを見せた米国のBLM(ブラック・ライブズ・マター運動)は、瞬く間に世界へ広がった。BLMの日本語訳には、その歴史的、社会構造的背景から様々な意見があるが、それは別の機会にして今回は企業に与えた影響に注目したい。
ほんの数年前まで、米国では日本と同様、企業が政治的メッセージを出すことはあまり無かった。かつて、ナイキの広告塔だったマイケル・ジョーダンは、政治的・社会的発言や活動を避けた。民主党候補者に対する支持表明の依頼に『共和党員だってバスケットシューズを買う』とジョーダンが答えたのは有名な話だ。
しかし、ナイキは2018年、「黒人や有色人種への差別がまかり通る国に敬意は払えない」として国歌斉唱の際に膝をついて抗議したNFL(全米フットボールリーグ)のコリン・キャパニックを広告塔に起用した。
キャパニックは、「Believe in something. Even if it means sacrificing everything. (何かを信じろ。たとえすべてを犠牲にするとしても)」という、彼の抗議姿勢を正面から打ち出す政治的メッセージとともに、「Just do it」30周年記念キャンペーンの顔となった。