鮎未はスマホを取り出すとフードシェアリングのアプリを店長に見せた。レストランやパン屋で余った品物を2-3割値引いてアップしておくと、欲しい人がボタンをタップして取りに来る仕組みだ。食品ロス防止が目的で若い人に人気がある。画面には焼き肉店、割烹、カフェ、イタリアンなどがテイクアウトしてほしい品物を並べており、最寄り駅や地図も見られるようになっている。
「ウワーッ、鮎未ちゃん、これなかなかオシャレだね。パン屋さんも棚をカラにするわけにはいかないから無理に並べていて結構、閉店時にパンがあまるんだよ。食品ロスをなくすなんて言うと大げさだけど、これなら誰でも気軽に参加できそうだな」
「そうですね、じゃあ店長、早速うちも登録しましょう。この仕組み、デンマークで始まったらしいけど、米国やアジアでもどんどん広まっているそうよ」
「お客さんが余った食べものをレスキューしてくれるなんてうれしいな」
「値段が安いというだけじゃつまらない。私にいい考えがあるの、店長」
 鮎未のアイデアというのは、カレーライスを引き取りに来た客に無料でコップ1杯のワインをサービスしては、というものだった。
 カレーにワインだって! 店長は目を丸くしたが、鮎未は引かなかった。カレーのココナツやスパイスに合うワインがあるはずだ。あまり知られていないが、インドは今や中国と並ぶワイン王国だし、スリランカにも国産ワインがある。
「ワインの語源って、古代インドの神酒を指すサンスクリット語のヴェーナだという説もあるって。カレーにインド産やスリランカ産のワインをマリアージュしようよ。本当はフランスの白ワインや渋みが控えめなカリフォルニアの赤ワインなんか合いそうだけどね。こちらは有料かな」
 カレーとワインという意外な組み合わせは思った以上に好評だった。常連も増えた。金曜にカレーの余りが出ると必ず2食買ってくれる気になる青年がいた。クレジットカードの支払いからシロヤマ・シンジという名前だと知った。漢字でどう書くのかはわからない。多分「城山」ではないかと思うが、いつもアルザスの白ワイン、ゲヴュルツトラミネールを一緒に買うので、鮎未にとっては「白山」である。
「近くに住んでいるんですか?」ある日、内気な鮎未には珍しく、思い切って声をかけてみた。
 一瞬、驚いた表情を見せた白山だったが、ああ、とうなずいた。

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