医師でありつつも実は2度の大病を経験している。最初は36歳の時に突然副交感神経を冒され4ヶ月の入院。
そして2008年には乳癌の発症。その都度名知さんは“Something Great”に試される。日本の勤務医であれば社会的にも経済的にも何ら問題ない安定した人生が保証される。
背水に迫られる中での究極の選択。それは簡単に語れるものではなく感謝、愛着、意地、プライドなど複雑な思いが交錯した。しかし最後は「自己ミッション(自分の使命)」に帰結する。そして名知さんはミャンマー僻村での医療の道を選んだ。

■社会課題とビジネス
「国境なき医師団」時代に既に気づいていたが、名知さんはミャンマーの無医村で活動を続ける中で医療単独での治療の限界を知ることとなる。
きちんと治療を施しても、患者は一定期間をおいてまた診療所に戻って来ることの繰り返しなのだ。根本原因は食糧不足からくる慢性的栄養不足だと看破した。
無力感を感じつつあった名知さんは偶然講演しに訪れた東京農大で有機農法というヒントを得てその実現に動き始める。
栄養価あるオーガニック野菜、穀類をたくさん収穫できれば豊富なビタミン類を摂取できる。これは未病の鉄則である。
名知さんはそれまで取り組んで来た医療活動、保健衛生教育活動に菜園活動を加えた。大きな畑でなくとも庶民が庭先をオーガニックガーデンにし、使用した天然防虫薬の成果もあり収穫の増産が可能となった。
これは地元民の収入増加にもつながるし、ビジネスモデルとしても差別化されている。目先対応でなく根本対応たるシステムチェンジの要素も内包している。この3つの要素からなるサイクルは再現性もあり、立派なソーシャルビジネスと言えよう。
■社会起業を考える皆さんへのメッセージ
名知さんは「自己ミッション」を見つけることが何より大切だと言う。無宗教でありつつも“Something Great”を身近に感じている名知さんは、Calling(召命)に導かれように人生を歩んできたという。
今いるミャウンミャ地区で地元民が上記3大要素からなら医療システムを自立して行えるようになった時(来年の予定)、次はまた違う地区で同じことを再現したいという。
ミャンマーに残りの人生を捧げる覚悟だ。「聴診器1本で診療が可能であること」を教えてくれたミャンマーへの恩返しをするために。彼女はミャンマーのマザー・テレサかもしれない。

名知 仁子さん
社会起業大学 第5期修了
NPO法人ミャンマー ファミリー・クリニックと菜園の会 代表理事
https://mfcg.or.jp/
林 浩喜
社会起業大学 学長