2019年の現地調査で、M.I.Eモデルにおいては、障害者就労継続支援B型事業所の平均工賃をはるかに超える工賃を障がい者が受けていること、働く喜びも得ていること、企業の貴重な戦力になっていることが明らかになった[2]。しかし、それだけではない。社員インタビューを通して、シナジー効果が生まれていることも見えてきた。
そこで2020年、M.I.Eモデルの中核的企業1社を対象に、社内のシナジー効果に関する調査を行った。
その結果、障がい者の存在が社内の心理的安全性を高めることによって、健常者社員の業務パフォーマンス(仕事ができる度)を改善することが分かった。心理的安全性とは、米国Google社の社内調査を通して、業務効果が高いチームの要因として析出されたものである。
自分のマイナスの部分や弱み(能力の低さや病気などによってチームに負担をかけるような要因)を見せても、受け止めてくれるという信頼感がある状態である[3]。簡単に言えば、人間関係の良い組織である。
調査の結果を共分散構造分析にかけることによって興味深いモデルが導出された。ただ、複雑なモデルとなったため、オルタナオンライン用に簡略化したものが図1である。
図1は、次のことを示している。会社における障がい者の存在は、障がい者支援のために社内で協力しようとする姿勢に加え、障がい者に配慮する姿勢を生む。
それは、組織の心理的安全性を高め、健常者社員の仕事に対する満足度を高めることを通して、健常者社員の業務パフォーマンスにつながることである。業務パフォーマンスが高まれば、業績にも影響があることは、容易に理解できる。
つまり、障がい者がいれば、健常者は、支援せねばという倫理的意識を強くする。職場においては、健常者社員同士が協力して支援(合理的配慮)を行うことになる。倫理観が高まり、協力関係にあり、配慮の雰囲気がある職場では、健常者同士でも配慮を行うことになり、その結果、職場の心理的安全性が高まるのである。
今回の調査では、身体障がい者と知的障がい者が手助けを欲している状況に遭遇した際支援するか、そのために健常者同士で協力するかを尋ねる項目などから成るアンケートを実施した。その結果、知的障がい者への支援は、配慮やそのための協力の志向がより強い必要があるが、その志向が強い者は心理的安全性が高い人間関係を形成しており、業務パフォーマンスも高いことが分かったのである。
ただ、それは知的障がい者に対する心理的ハードルがあることも意味している。そこで、企業が社内の人間関係改善による業務パフォーマンスの向上という果実を得るには、健常者社員の心理的ハードルを下げるための社内研修や就労支援組織などによるサポートが必要となるのである。
横浜市立大学都市社会文化研究科教授
CSR&サステナビリティセンター長
影山 摩子弥
[1] 影山摩子弥「三重県伊賀市における障がい者の請負型施設外就労の試み」『横浜市立大学論叢』人文科学系列 第71巻(第1・2号)、2020年1月31日。
[2] 影山摩子弥『なぜ障がい者を雇う中小企業は業績を上げ続けるのか?』中央法規出版、2013年
[3] 心理的安全性については、サイト参照のこと。