DXと脱炭素、グリーン成長を設計する

■小林光のエコめがね(6)■

論者は、日本経済研究センターの特任研究員を拝命している。このセンターは1963年設立で経済シンクタンクの日本の草分け。大来佐武郎氏など著名なエコノミストが集う場所である。定期的にマクロ経済の将来予測を行って発表していて、企業活動を展望する上でのレファレンスを提供している。最近は、デジタル革命(DX)と脱炭素を織り込んだ予測に注力している。

最新の中期経済予測は、この3月に発表したもので、2035年までを視野に入れている。これによれば、標準的なシナリオでは、DXなどへの投資が不足し、コロナ禍の悪影響を引きずり、日本は、2030年頃からマイナス成長期に入ることになる。

他方、脱炭素に思い切って舵を取ることによって、安いエネルギーで稼ごうとする経済から脱却し、ビジネスモデル構築やブランド化などの無形資産への投資を増やして全要素生産性を高めることができれば、GDPのプラス成長が続くとの予測が可能になる。脱炭素は、国難で仕方なくするものでなく、稼ぐための戦略なのである。

昔の経済予測では、エネルギー価格が高くなれば、そのことによって誘発される投資も需要も乏しく、ただ価格上昇効果で総需要が減少し、経済は縮小するとのご託宣になった。そしてこれが環境政策への反対の根拠に使われた。

他方で、最近の経済モデルでは、化石燃料の価格上昇があれば脱エネへの産業構造転換を促すDX投資や再エネへの投資が増えて、新たな需要を創り出す関係が、将来的な投入産出の関係として入れ込まれているのである。こうした産業の新しいエコシステムをきちっと認識することが日本経済の生き残りの鍵である。

皆さんの頭の中にある産業エコシステムはアップデートされていますか。

hikaru

小林 光(東大先端科学技術研究センター研究顧問)

1949年、東京生まれ。73年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、環境庁入庁。環境管理局長、地球環境局長、事務次官を歴任し、2011年退官。以降、慶應SFCや東大駒場、米国ノースセントラル・カレッジなどで教鞭を執る。社会人として、東大都市工学科修了、工学博士。上場企業の社外取締役やエコ賃貸施主として経営にも携わる

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