先日、ある企業のCSR部長からメールを頂きました。
主には「地球は本当に温暖化しているのか」というご質問でした。しかし、今や日本の企業人は、地球温暖化だけではなく、環境問題や社会とどう向き合うか、が広く問われています。
その意味で、他の方のご参考にもなると思い、ご本人(匿名)の了解を得た上で、内容を公開させて頂きます。
◆あるCSR部長からのご質問内容(メール)
今までお尋ねしようとして、あまりにも初歩的で気恥ずかしく、持ち出せなかった質問があります。
以前、友人との会話で、広瀬隆氏『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(集英社新書)に話がおよび、IPCCのデータ捏造やデータの恣意的使用のことがクライメート・ゲート事件で決定的になったため、ゴアの「不都合な真実」もそのままは信じられなくなったというような話が出ました。
武田邦彦氏や池田清彦氏のような、マスコミに頻繁に登場している方たちとは違って、広瀬氏の論の展開は理に適っていて腑に落ちたものですから、私は同著を読んで以来、何やら落ち着かない気持ちになっておりました。
これを解決しないと、「社内啓発」にも差し支えが出そうです。
広瀬氏がご指摘のように、このクライメート・ゲート事件については、わが国のマスコミは何も報じてくれません。
この夏には、ナチュラル・ステップ・ジャパンの高見幸子氏からもクライメート・ゲートの見解をうかがいました。
同氏からは、「最近も北極海沿岸に出かけ、陸地にあった氷が減少しているのを見てきたばかりです。確かに、温暖化は進んでいると考えます」とのお答えを頂きました。
しかしこればかりは、賛否両サイドに属する人たちの対論を聞かないと実効的ではないかもしれません。
広瀬氏が槍玉にあげている日本のマスコミの一つ、NHK出身の二人の対論を、最近ようやく読みました。
池上彰氏と手嶋龍一氏の『武器なき“環境”戦争』(角川SSC新書)がそれです。
ここでは、クライメート・ゲートを発端とする主張への反論が掲載されています(P.113-149)。対論をした二人ともNHK出身という点は大いに気になりますが、論旨は納得できる部分が多いと思います。
この問題、私の中では、まだ完全に決着がついておりません。どのようにしたら、いいのでしょうか?
◆オルタナ編集長・森のお答え
真摯な質問、有難うございます。森も真摯に答えさせていただきます。
まず、私たちのスタンスは、気候変動の行方は、本当のところ、誰にも分からないというものです。
地球が生まれて以来の46億年の間、22億年前の全球凍結もありましたし、CO2が7000ppm(現代の30倍)に達し、地球の平均気温20度を超えていたときもありました。
これから温暖化なのか、寒冷化なのか、「現代の科学では、本当のところは分からない」というスタンスが「まっとう」だと思っています。
そして、「自分の説は正しくて、それと違う論を展開する人は間違っている」と自信を持っている人ほど、怪しいという気がします。
こうした謙虚なスタンスに立った上で、オルタナとしては、IPCCの予測に準拠した紙面づくりをしています。
これは、「もし地球温暖化が人為的要因であるならば、それはできるだけ削減したほうが良い」という予防的スタンスなのです。
人為的要因がはっきりしてから対策を取っても手遅れになるからです。
そして、私たちの雑誌では、地球温暖化の行方より、資源の有限性を含む、サステナビリティ(持続可能性)を重要視しています。
ピークオイルは、一般的には「石油の枯渇」をイメージさせます。しかし、必ずしも完全に枯渇しなくても、需給が逼迫して価格が暴騰するだけで、現在の経済社会システムは大きな変貌を余儀なくされます。
例えば、ガソリンが高騰して1リットル300円になると、通勤や通学のために軽自動車にもなかなか乗れなくなる人が増えるでしょう。その場合の代替手段をどうするのか。ガソリンの高騰に対して、国として、行政として、企業として、個人として、私たちは備えるべきではないでしょうか。
この点、日本人や日本のメディアの危機感が薄いのが気になります。
INAXやリコーのような、いわゆる環境経営は、化石燃料の暴騰にも備えた、一歩進んだ経営戦略と見るべきです。
それは、サステナビリティ経営が、市場や消費者からも求められる時代に備えた、競争力保持のための優れた企業戦略だと思います。
現在のさまざまな論に惑わされるよりも、サステナビリティを重要視して、企業の競争力の向上を目指す、というのが正しい判断ではないでしょうか。