五輪開会式で手話通訳が放映されなかった件

7月23日に開かれた東京五輪の開会式で手話通訳者がテレビ中継に映っていなかったことを受けて、NPO法人インフォメーションギャップバスター(横浜市、理事長・伊藤芳浩)などは8月7日、緊急オンライン集会を開く。「多様性」とは、「平等」とは何か。開会式で手話通訳者が放映されなかったことを事例に意見をぶつけ合う。(オルタナS編集長=池田 真隆)

「お互いを認め、尊重し合い、ひとつになったこの景色は、多様性と調和が実現した未来の姿そのものです」

23日に新国立競技場で開かれた東京五輪の開会式に登壇した東京五輪 パラリンピック大会組織委員会の橋本聖子会長は自身のスピーチでこう語った。「多様性と調和」は東京大会が掲げる基本コンセプトの一つだ。

組織委としては大会を通して、世界に多様性と調和をアピールしていくことを考えていたが、複数の障がい者支援団体からは「世界との差が浮き彫りになった」という声が出ている。韓国や台湾では、東京大会の開会式の放映にあたり、ワイプで手話通訳者を映していた。

日本には手話を生活のベースにしている人が約8万人いる。多くの番組に字幕情報が付いているが、手話をベースにコミュニケーションを取っている人にとっては字幕情報だけでは正しく情報を把握することができないという。

こうしたことから全日本ろうあ連盟は開会式直前の7月22日に開会式のテレビ中継に手話通訳者を映すよう組織委やNHK、民放連などに要望書を出していた。しかし、実際の中継には手話通訳者は映らなかった。会場のビジョンには手話通訳者が映されていたが、これは当日現場にいたろう者向けの配慮であった。原則、放送事業者側が手話通訳者を手配することが必要なのだ。

この放送を受けて、インフォメーションギャップバスターと手話推進議員連盟(代表世話人・永野裕子)は24日、菅首相、組織委、NHK、民放連などに今後開かれる東京オリ・パラの開閉会式のテレビ中継には手話通訳者を映すよう求める要望書を提出した。全日本ろうあ連盟も26日、NHKや民放連に対して、同様の要望書を出した。

現時点ではNHKのみ返事があり、8月8日の閉会式、東京パラリンピックの開会式(8月24日)と閉会式(9月5日)については「Eテレ」で手話通訳者を映すとしている。

だが、これに対して、インフォメーションギャップバスターの伊藤芳浩・理事長は、「多くの方が視聴する総合テレビでは手話通訳が放映されない。結果として、2つの中継に分かれ、手話が必要な人だけEテレを観るという分離・排除が起こる。これは、手話を多くの方に目につく形から排除することになり、大会コンセプトの一つである『多様性と調和』に反する」と批判する。

全日本ろうあ連盟の倉野直紀理事も、「障害者権利条約では、障害のある人が自ら選択した方法で情報を受ける権利が保障されている。放送事業者には責務として、手話通訳者を映してほしい」と話す。

Eテレのみで手話通訳者を映すというNHKの方針には「排除につながる。承服できない」として、「建設的な対話をしていきたい」とした。

8月7日にインフォメーションギャップバスターが開くオンライン集会では、手話通訳者が放映されなかったことの問題点や経緯を振り返る。「多様性」や「平等」とは何か、参加者と意見交換を行う。

【お知らせ】緊急オンライン集会『多様性と調和のオリンピックに手話通訳を!』
NPO法人インフォメーションギャップバスター・手話推進議員連盟共催
この度のオリンピック開催にあたっては、次々といろんな問題が起こって、関係者の方は様々なご尽力のもとに開会式が行われたと思われ、関係各位への敬意を表しつつも、やっぱり、理念に照らして大事なことが置き去りにされてはならない。 関係者の声を聞き、皆で考え、意見を出し合い、オリンピックを契機に世界平和や多様性、平等といった理念を実現するためのムーブメントとすべく、緊急集会を開催します。 是非、ご参加ください!!

日 時: 令和3年8月7日(土)15時半~
テーマ: 「多様性と調和のオリンピックに手話通訳を!」
話し手:
(特非)インフォメーションギャップバスター 理事長 伊藤芳浩
豊島区聴覚障害者協会 会長 長谷川則之
聞こえないきょうだいをもつソーダ&家族 代表 弁護士 藤木和子
手話推進議員連盟 代表世話人 豊島区議会議員 永野裕子
情報保障:手話通訳、UDトークによる文字通訳有
申 込: 下記Googleフォームにご記入の上、お申し込みください。 (準備の都合上、前々日までにお願いいたします。)
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScUy2Mx5WB3I-SU8i8RqCm4S0_qXEIJUg0766IyyFM9v7aY7A/viewform
※ 講演と質疑、意見交換で概ね1時間半を想定しています。
皆様のご参加をお待ちしております。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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