がん罹患者の3割離職、がんサバイバー取り巻く課題

がんになっても安心して暮らすことができる社会のために①

がん治療の多くを通院で行うことができ、がんに罹患した人の生存率が上昇傾向にある現在、がんサバイバー※1が治療や経過観察をしながら働くことや社会生活を送るケースが増えている。一方で、がん罹患者の34%が離職し、そのうち40%が治療開始前に辞めている事実もある。病気や治療への不安、治療費や生活費などの経済的な負担にとどまらず、就労との両立における物理的・精神的な壁も多く、がんサバイバーや家族にとって、医療者だけではなく企業や同僚など周囲の理解や支援に対する重要性が増している。(照井敬子)

がんに関するデータ推移

高齢化が加速する日本では、年間約100万人が新たにがんに罹患し約37万人ががんで亡くなっている。生涯でがんと診断される確率は、男性65.0%、女性50.2%(2018年データ)と、およそ2人に1人である。

また、1981年以降ずっと日本の死因の第一位はがんである。高齢化により「生涯におけるがん罹患率」と「死因におけるがんが占める割合」は増加したが、人口高齢化の影響を除外した年齢調整率でみると、がんの罹患数は2010年前後まで増加しその後横ばい。死亡数は1990年代半ばをピークに減少している(国立がん研究センター病院のがん情報サービスの分析より)。

さらに、がん罹患者の5年相対生存率※2は多くの部位で上昇傾向にあり、全部位平均では男女ともに6割を越え、かつては罹患する人が少ない不治の病とされていたがんは、長い期間付き合っていく、社会の中で共生していく病になりつつある。

小児やAYA世代、働く世代におけるがん罹患

日本における若年層の年間がん罹患者数は、15歳未満の小児で約2100例、15~19歳で約900例、20歳代で約4200例、30歳代で約16300例と推計される※3。

40代を過ぎると性別により傾向が異なる。女性は40代で乳がん・子宮頸がんの罹患数が大きく増加することから約38200例、50代で約50800例。男性は40代では約15,300例だが、50代後半から約43700例と急増する。これは喫煙や飲酒などがんのリスクを高める生活習慣が大きく影響していると推察される。60代を過ぎると特に男性において顕著な増加がみられる。

小児やAYA世代(思春期・若年成人※4)における年間がん罹患者数は、約37万人のうちの約23000人と1割に満たないが、家族のがん罹患も含めその年代で経験することの人生への影響を考えると、若年層ががんについて正しく学ぶことは必要である。

また、定年が65歳に延長されたこと、女性の就業率が2001年より増加傾向にあること(ただし2020年は減少)などから、多くの働く世代ががん罹患を経験していると考えられ、治療と仕事の両立支援は社会全体の課題といえる。

がんサバイバーを取り巻く課題

がんと告知されてから、治療期間、経過観察期間、そして治療を終えてもなお、がんサバイバーを取り巻く課題は多岐にわたり存在する。

1つ目の関門が告知から治療開始までの期間である。がんと告知された最も不安に苛まれる時期に、病状を理解し治療方針を決めなければならないので、玉石混淆の情報の中から自分に適した情報を集め、冷静に判断できる人は少ないだろう。健康なうちから情報の入手方法や情報自体を知っておくことは、「納得のいく判断」の一助になるはずである。

治療中は、化学療法や放射線療法、経口抗がん剤の服用などによる副作用に対処しなければならない。以前と異なり副作用軽減や予防のための薬剤が充実したことや、緩和ケア専門家によるサポートなどにより患者の負担は軽減されたといえ、心身ともに非常につらい時期である。

また、治療費や生活費など経済的な不安はもちろんのこと、家族や周囲との関わり方に不安を感じる人もいるだろう。企業で就労している人は、通院しながらの働き方や、職場復帰後の働き方など「治療と仕事の両立」について会社の制度活用や労務担当者・上長・同僚との協議や支援が必要となる。

次回は、このようながんサバイバーを取り巻く課題や困りごとに対応し、がんになっても安心して暮らすことができる社会を目指す医療機関や企業・学校の取り組み、公的支援制度などを紹介したい。

※1がん治療を終えた方だけでなく、がんと診断されたばかりの方や治療中や経過観察中の方なども含む、すべての「がん体験者」のことを指す。なお、米国では、がん体験者本人だけではなく、その家族や友人、介護者も含めた広い概念で定義されている(大腸がん情報サイトより)

※2あるがんと診断された場合に治療でどのくらい生命を救えるかを示す指標の一つで、異なる集団や時点などを比較するために慣例的によく用いられる。あるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、日本人全体で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかで表す。100%に近いほど治療で生命を救えるがん、0%に近いほど治療で生命を救い難いがんであることを意味する(国立がん研究センター病院HP/がん情報サービスより)。
女性の場合は26部位のうち75%以上は7部位(喉頭、皮膚、乳房、子宮、子宮頚部、子宮体部、甲状腺)あり、50%を示すのが16部位(上記に加え、口頭・咽頭、胃、結腸、直腸、大腸、卵巣、膀胱、腎・尿路、悪性リンパ腫)となっている。

※3 2009-2011年における人口あたりの罹患率から推計した数値。

※4 Adolescent and Young Adult(思春期・若年成人)の頭文字をとったもので、15歳から30歳代までの世代を指す。子どもから成人への移行期も含むため、小児で発症することが多いがんと、成人で発症することが多いがんの両方の種類が存在する(国立がん研究センター病院HP/がん情報サービスより)

本稿のがんに関する医療情報、データ出典:「国立がん研究センター病院HP/がん情報サービス」

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照井 敬子

薬樹株式会社SDGs推進担当マネジャー・NPO法人Liko-net代表理事 医療という人の命に関わる仕事だからこそ、持続可能な仕組みを大切にしたいとの考えのもとSDGs推進を担う。また、NPO法人としてサステナブルをテーマに生活者に向けた啓発イベントを行う。

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