環境や人に配慮、「エコシュリンプ」とは

網や手づかみで捕まえたりするなど、エビを傷つけないように収穫を行う(撮影・山本宗補)

世界のエビ消費量の拡大で、東南アジア諸国で養殖が進むエビ。環境汚染や加工現場の低賃金労働が問題視されているが、人口飼料や抗生物質を与えず、自然な生育環境で育てる「エコシュリンプ」が注目を集めている。

水産庁の調査によると、日本のエビ類の自給率は5%(09年度)。国内漁獲量は2万トン(09年)で、国内で消費されるエビの大半は輸入に頼っている。東南アジアを中心に世界各国では、養殖エビが大量生産されている。

だが、エビの養殖には問題が多い。現在のエビ養殖は、1970年代に台湾で始まった「集約型養殖」が一般的である。集約型養殖地の多くは、海岸沿いのマングローブ林を伐採して作られる。この養殖法は、狭い池で多量のエビを飼い、人工飼料で短期間に大量生産する。そうすると、エビに病気が発生しやすくなり、抗生物質などを使用することになってしまう。水や土壌の汚染にもつながる。

そこで、注目を集めているのが、「エコシュリンプ」である。日本でフェアトレード(公正貿易)商品を販売するオルター・トレード・ジャパン(ATJ)(東京・新宿)の子会社オルター・トレード・インドネシア(ATINA)が製造・加工している。

エコシュリンプは、インドネシアのジャワ島東部とスラウェシ島南部で育てられている。海水と淡水が混ざる汽水域に作られた養殖池で、エビと共にミルクフィッシュ、川魚、ミミズなどが放流され、生態系が保たれている。人口飼料や抗生物質は一切与えない。

環境だけでなく、労働環境の整備にも努める。『エビ加工労働者という生き方』(ATJ)によると、一般的に、エビ加工工場の多くは、日雇労働や出来高払いなど、収入が不安定だという。ATINAでは月給制を敷き、社会保険制度への加入や通勤・食事手当など福利厚生を充実させている。

殻むき・背ワタ取りセクション班長のヌル・リスマロさん(42)は、「単純作業だからつまらない、ということはない。責任を感じて働くことは楽しいし、美味しいエコシュリンプを作ることはやりがいです」と明るく話す。

ATINAの加工工場で。池で専用ボックスに氷詰めし、トレースを明確にして工場へ運ばれる(撮影・DAYS JAPAN広河隆一)

直近のエコシュリンプの売上高は、7億円(09年度)だ。取り扱いを開始した90年度と比べると、約19倍になる。生協や大地を守る会(千葉市)などでも取り扱っている。

日本人の多くは、エビがどこから来たか、どのような過程を経て店頭に並んでいるか、ほとんど知らないだろう。『エビと日本人』(岩波新書)の著者、早稲田大学アジア研究所・村井吉敬客員教授は、「先進国の『消費』のあり方が問われている。労働者も生産者も消費者も互いに顔の見える関係に向かって歩むべき」と語る。(オルタナ編集部 吉田広子)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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