連載:企業と人権、その先へ(11)

私事で恐縮だが、1カ月ほど前にバンコクに拠点を移した。日本政府の資金拠出による、国連開発計画(UNDP)のビジネスと人権プロジェクトにリエゾンオフィサーとして参画するため、久しぶりの東南アジア生活である。

UNDPは、令和3年度補正予算の枠組みでグローバルプロジェクト「日本企業進出先国等における責任ある企業行動の促進 – グローバルなサプライチェーンにおける人権デューディリジェンス 公正な復興のための国連の『ビジネスと人権に関する指導原則』の活用」を2023年3月まで実施する。

2016年以降、UNDPは、スウェーデン政府や欧州連合(EU)からの支援により、アジア太平洋地域を中心に、国連ビジネスと人権に関する指導原則の実施を支援してきた。筆者も2017年にUNDPのプロジェクトに携わり、タイ、マレーシア、インドネシアといった東南アジア主要各国のビジネスと人権に関する知見を得た。それ以降も、タイが2019年にビジネスと人権に関する行動計画(NAP)を策定するなど、この地域におけるビジネスと人権の政策と企業の実践も着実に進みつつある。

本プロジェクトは、アジア太平洋地域のみならず、グローバルで17カ国が対象となっている。

  • アジア太平洋:モンゴル、ネパール、インドネシア、パキスタン。ラオス、タイ、ベトナム
  • アラブ諸国:チュニジア
  • アフリカ大陸:ケニア、モザンビーク、ガーナ
  • 東欧・中央アジア:トルコ、ウクライナ、カザフスタン、キルギス
  • ラテンアメリカ・カリブ:メキシコ、ペルー

これらの国々は、日本企業の進出先国や各国におけるビジネスと人権に関する政策などを総合考慮して選定された。もちろん、日本企業の進出先国全てをカバーしているものではない。だが、今回のプロジェクトを通じて、海外のサプライチェーンの課題について現場からの情報を共有し、日本企業とそのサプライヤーのビジネスと人権の取り組みのきっかけにしたいと考えている。

目指す成果は、大きく2つある。

1つ目は、バリューチェーン全体を通じて人権基準の遵守を確保することにより、コロナ禍からの公正な復興を推進することである。そのために、まず、17カ国それぞれにおいて、日本企業とそのサプライヤーが直面しうる人権リスクに関する調査を実施する。その上で、そこで特定される人権リスクに対する取り組みを推進するために、人権デュー・ディリジェンスに関する研修の実施、さらに企業への個別ガイダンスを提供する。この研修及び個別ガイダンスは、17カ国と日本においてそれぞれ実施する。併せて、コロナ禍以降の経済復興における企業の人権尊重責任を担保するツールキットの作成も予定している。

2つ目としては、政府及び国家機関によるビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP)または、同様の政策の策定・実施である。対象17カ国のうち、既にNAPを発表している国々もあるが、企業の取り組み支援をより一層後押しするためにも、政策支援が重要となる。それが、「公平な競争条件」、レベル・プレイングフィールドの構築、そして企業のインセンティブにつながるからである。

ビジネスと人権に取り組む企業の共通課題として、海外のサプライチェーン上の課題の把握、そして人権方針といった施策の浸透が挙げられる。今回のプロジェクトは、このような共通課題に取り組むきっかけとなる具体的な機会を提供することにで、日本企業とそのサプライヤーの協働による人権の取り組みを促進し、社会の持続可能性に向けた、責任ある企業行動を強化することを企図している。

6月17日には、経団連会館およびzoomのハイブリッド方式によるセミナー「日本企業およびそのサプライヤーに期待される人権デュー・ディリジェンスの現状と今後の展開〜日本とUNDPの新たなパートナーシップ」を開催する。加えて、現在、各国においてプロジェクトを展開しており、私自身も、17カ国の現状や取り組みから学ぶことが実に多い。次回からは、各国におけるビジネスと人権の取り組みについて、少しずつ皆さんにお届けしたいと思う。

プロジェクトにご関心のある方は、ぜひお問合せいただきたい。