記事のポイント
①ヤングケアラーとは18歳未満で親やきょうだいの世話をする若者を指す
②厚労省の調査では学校では1クラスに1~2人いることが明らかになっている
③「相談してもどうにもならない」と思い込み、相談することを諦めてしまう
【対談】プロシューマーを巡る(2)
18歳未満で親やきょうだいの世話をするヤングケアラーを支援するには何から始めたらいいのか。厚労省の調査では学校では1クラスに1~2人いることが明らかになっているが、課題は「孤立感」だ。「相談してもどうにもならない」と思い込み、友人や先生らに相談することを自ら諦めてしまう。(オルタナS編集長=池田 真隆)
一般社団法人ヤングケアラー協会はヤングケアラーのためのLINEの相談窓口を立ち上げようとしてる。同協会を立ち上げた宮崎成悟さんは「助けてというSOSの声をいつでも拾える仕組みが必要」と強調する。

ヤングケアラーが抱える「孤立感」や必要な支援は何か。ブロックチェーンやAIなど最先端ICT技術を駆使してプロシューマーづくりを目指すIT企業のFreewll(フリーウィル)の麻場俊行社長が話を聞いた。
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麻場:ヤングケアラーとはどのような若者のことを指しますか。
宮崎:ヤングケアラーは親やきょうだいなどの介護に追われる18歳未満の若者たちのことです。
18歳以上でそのような境遇にいる人を「若者ケアラー」といいます。平成29年度の就業構造基本調査では30代の若者ケアラーを入れると約55万人に上ります。
厚生労働省の調査では、15〜19歳のヤングケアラーは約3万7100人で、その割合は1クラスに1〜2人に当たります。
増えている背景には、核家族化や共働き家庭、ひとり親家庭が増えたことがあります。介護や身の回りの世話を子どもが一人で請け負うことになります。
麻場:そんなに多いのですね。どのような悩みを抱えていますか。

宮崎:ヤングケアラーの状況は一人ひとり異なるので一般化することが難しいのですが、「孤立感」は抱えていると思います。
近年は認知症やアルコール中毒になった親の介護をするヤングケアラーが増えていますが、友人や学校の先生などに打ち明けることができずにいます。
次第に勉強や恋愛なども諦めてしまい、自然と「孤立化」してしまうのです。
■「言っても分かってくれないだろうという気持ちもありました」
私も元ヤングケアラーでした。中学3年生のときに母が難病になりました。父と姉がいましたが、家族で話し合い日常の買い物や家事などを含めて母の介護を引き受けました。
高校3年生になると病状が悪化して、寝たきりになってしまいました。夜は母の隣で寝て、トイレに行きたいときはおぶっていく毎日を繰り返していました。
この時も周りの友人には言えなかったです。休みの日に遊びに誘われても、なにかと理由をつけて断っていました。「介護」と言うと今後誘ってくれなくなるかもしれないという怖さもありましたし、言っても分かってくれないだろうという気持ちもありました。
大学を受験して受かっていたのですが、進学は諦めました。母の状況を見て、1年間は留年しようと考えたのです。
その一年はたんの吸引や投薬、食事などの世話をして過ごしました。大学に行きたい気持ちはあったので、隙間時間に勉強しようと思ったのですが、ほとんどできませんでしたね。介護してるときも母はずっと「死にたい」と口にしていました。
■「心が安らいだ時間は、母が寝ている隣で小説を読むとき」
よく母が寝ている隣で、アメリカのハードボイルドな小説を読みましたが、その時間が唯一心が落ち着いた時間でした。
翌年には父と姉の協力もあって、受験勉強ができ、立教大学に進学できました。
進学はできたのですが、母の介護があるので一限が終わると急いで家に帰ってお昼ご飯の用意や排せつの世話をして、また大学に行く。授業が終わるとすぐに家に帰る。友達と遊びに行くことはもちろん、バイトやサークル、部活はできませんでした。
そのような大学生活を送ったので、就活のときは何をPRすればいいのか分からなかったですね。「介護をしてきました」と伝えてもほとんど評価されませんでした。
■「何で君が介護してたの?」
なかには、「何で君が介護してたの?」「大学はサボってたの?」と穿った見方をされたこともあります。
なんとか1社内定を得たのですが、地方への転勤があり、介護離職せざるを得ませんでした。
麻場:宮崎さんのお話を聞いていると私の母のことを思い出しました。中学生のときにアメリカに行ったのですが、背中を押してくれたのは母でした。
悪ガキで周りに迷惑をかける子どもでしたが、漠然と夢はありました。すると、母が「それならアメリカに行きなさい」と言ってくれたんです。

それで中学2年生のときにホームステイをしに行きました。英語なんて、イエス、ハローくらいしか分かりません。インターネットもなかったので、母がスーツケースに大量の辞書とカロリーメートを入れてくれました(笑)。
高校生になりアメリカ留学から帰ってきましたが、18歳のときに母に癌が発覚しました。
自分の背中を押してくれた母に感謝していたので、大学に進学しようと思っていましたが、母の看病をしたくて行きませんでした。
亡くなるまで2年ほど介護していましたが、本当に壮絶でした。そのことを宮崎さんは17年間もしていたと思うと、とんでもないことだと思います。想像できないほどの孤立感を抱えていたと思います。
ところで会社員時代を経て起業されたそうですね。起業しようと考えた経緯を教えてください。
■「27歳で初めてヤングケアラーという存在を知りました」
宮崎:起業しようと考えたのは27歳の時です。社会人になってから難病支援NPOのボランティアをしていました。
そのNPOの活動に参加したことで、初めて「ヤングケアラー」という存在を知りました。そして、ヤングケアラーは17万人いると聞き、衝撃を受けました。

これまで自分と同じ境遇にいる人はいないと思っていたので。そこで、ヤングケアラーを支援する事業を立ち上げたいと考えました。
ヤングケアラーの人材紹介ビジネスを始めたのですが、ヤングケアラーを欲しがる企業が少なかったです。介護した経験を正当に評価してくれなかったですね。
そこで、2021年に株式会社ではなく一般社団法人を立ち上げました。国としてもヤングケアラーの実態調査を始めた年なので、国の支援方針に合わせて事業を作りました。
行政と連携するには非営利団体の方が良いと考えたのです。ヤングケアラーの個別相談や自治体向けの研修講座などを開いています。
■オンラインコミュニティの人気スレッド「返信不要の独り言」
麻場:オンラインコミュニティも運営されているそうですね。
宮崎:はい、今は約300人が入っています。ヤングケアラーや支援者がコミュニケーションを取っていて、特に人気なのが、「返信不要の独り言」というスレッドです。
愚痴から家族への不満などを吐き出せるスレッドで、見た人は顔文字などで返信するルールにしています。
また、最近立ち上げようとしているのが、LINEの相談窓口です。
民間の支援団体や地方自治体、民生委員などが「支援者」ですが、課題はヤングケアラーとそれらの支援者がつながっていないことです。
■いつでも「助けて」というSOSの声を拾える仕組みを作りたい
そこで私たちはまずはLINEの相談窓口を作り、いつでも「助けて」というSOSの声を拾える仕組みを作ろうとしています。

たとえば、中学2年生のときは大丈夫だと思っても、高校3年生の時になったら周りと比較して自分の境遇に課題を感じるかもしれません。この場合、大切なのは身近に「相談相手」や「相談先」を持っていることです。
私たちは、ヤングケアラーの「辛い」「死にたい」という声を拾って、顕在化させて自治体や支援団体につなげる中間支援的な立場にいたいと考えています。
麻場:まさに時代に合った事業をしていますね。現在の課題は何でしょうか。
■「周囲がある程度自由になると自分だけが取り残されていると感じやすい」
宮崎:オンラインサロンは、小中学生を意識してつくっていませんでした。学校などの教育現場でもヤングケアラーの啓発は十分ではありません。だから、自分自身のことをヤングケアラーだと認識していない子どももいるはずです。
ただし、そういう子どもが大学生くらいになった時が一番危険です。周囲がある程度自由になると自分だけが取り残されていると感じやすいです。厚労省の調査でも、相談しない理由として、「そもそも相談することがない」「相談したところでどうなるか分からない」という回答が多かったです。
そういう子どもが大きくなったときに、いつでもSOSの声を拾える仕組みを作りたいのです。
麻場:小中学生向けにコミュニケーションを取るには自己顕示欲を満たすことが一つのカギです。辛さを全面に押し出しても、辛くなってしまうだけです。映像やアニメーションでこのコミュニティに入ると「楽しい」「かっこいい」と感じてもらうことが大切です。
ただし、現実も教えないといけません。お話を聞いてアルコール依存症も含まれるとなると相当な人数がいると思います。それらの若者にこのコミュニティで「出会い」や「心が通えるコミュニケーション」ができることを伝えていくのです。
そして、共助のコミュニティとして機能するだけでなく、道徳やウェルビーイング、マインドフルネスなども提供していくとよいでしょう。将来的にはこのコミュニティでエヴァンジェリストを育てることがよいと思います。
エヴァンジェリストは同じ境遇の子どもを助けることが使命です。企業や自治体に研修したり、ヤングケアラーの先輩として自分の体験談を多くの人に話したりしてほしい。
■ヤングケアラーを「プロシューマー」に
また、これは私の提案ですが、このコミュニティにいるヤングケアラーをプロシューマーに変えていくことも有効です。プロシューマーとは、生産と消費を一体化した概念です。消費先を意識して選ぶことで、社会を変える「消費」を心掛ける人のことを指します。
現在は300人の集団ですが、「ヤングケアラー経済圏」をつくり、消費で社会を変えていきます。たとえば、おすすめの買い物先の企業やブランドのリストを作成します。それらの企業はすべてヤングケアラー支援をしているところを選ぶのです。
普段の買い物先を変えることで、その企業の利益の一部が株主ではなく、ヤングケアラーの支援に回るエコシステムをつくれます。
ヤングケアラーを支援するために特別なスキルがないといけないと思い込んでいる若者に対して、「買い物先を変える=プロシューマーを目指す」だけで支援できることを訴求していけば、多くの人が参加すると思います。
買い物がヤングケアラーの支援になるだけでなく、自分たちも何か特典を得られる仕組みにすれば、彼らのモチベーションも設計できます。
■「一人ひとりが闘ってきたストーリーを世の中へ」
ヤングケアラー一人ひとりには「ストーリー」があるはずです。マーケティングの世界ではストーリーマーケティングが主流です。SNSなどで一人ひとりが闘ってきたストーリーを配信することで自然と輪は広がるはずです。
宮崎:コミュニティで経済圏をつくるという視点はこれまでありませんでした。ありがとうございます。今後の参考にさせて頂きます。
麻場:こちらこそ、本日は貴重なお話を聞かせて頂きありがとうございました。これからフリーウィルとしても何等かの支援活動を始めたいと思いました。これからもよろしくお願いします。
宮崎さんが「LINEの相談窓口」を立ち上げるために挑戦しているクラウドファンディングはこちら
◆「五感で感じよう!100年先へ想い伝えるエシカル展」のお知らせ
Freewillは9月9日、東京・渋谷で「五感で感じよう!100年先へ想い伝えるエシカル展」を開きます。テーマは、「Sustainable eco Society(循環経済の新たな概念)」です。会場となるTRUNK HOTELを貸し切り、エシカル・サステナブルをテーマにしたトークショーを開いたり、日本全国のエシカルな商品を展示したりします。商品はモバイルを通じてデジタル通貨(仮想通貨)を使用することで購入できます。
Freewillが実装した仮想通貨は、買い物使用するだけで森(*)が増える仕様です。購入体験を通じ、「買い物をするだけで森が増える」循環の仕組み、Sustainable eco Society(循環経済の新たな概念)を体感してもらう参加型のイベントです。
■「五感で感じよう!100年先へ想い伝えるエシカル展」概要
日時:2022年9月9日 (金)9:30~21:00(予定)
会場:TRUNK HOTEL (バンケット全4会場)※一部オンライン配信、アーカイブ配信予定
チケット申し込み;https://tells-market.com/experiences/moff_2022
特設サイト:https://tells-market.com/moff_2022
対象:Z世代及びエシカル・サステナブルなライフスタイルに興味のある方
入場料:無料 (会場内一部有料コンテンツをご提供予定)
主催:Freewill
共催:オルタナ、moretrees、CIジャパン、エシカル就活、ニッポン手仕事図鑑、AISEC Japan、和える、マルシェ、ニコラ
後援:渋谷区、S-House ミュージアム、いかしあい隊、エッセンス、エシカル協会(予定)「*森」は、あくまで代名詞であり、様々な地球課題解決や地域活性化に取り組むNPO・NGO・地方自治体・職人等の信頼のおける団体にお金が循環するイメージです。