外気温ゼロで室温保つ パッシブハウス

パッシブハウスでゼロエネルギーのミシュラー邸
パッシブハウスの大窓のあるリヴィング

【スイス=滝川薫】東日本大震災では、停電や灯油不足のために暖房できない建物の中で、避難民を初めとする多くの人々が寒さに苦しんだ。日本の建物の多くは、新しい建物であっても断熱・気密対策が不十分であるため、暖房が切れるとすぐに室温が外気温に近いほど下がってしまう。

対して、東北や北海道と気候が似ているスイスやドイツ、オーストリアといった中央ヨーロッパの国々では、建物の断熱強化を最も重要な省エネルギー政策としてきた。例えばスイスでは、新築の外壁には最低でも18㎝程度の断熱材を施すことが義務付けられている。このような建物では真冬に暖房が切れても室温が急激に下がることはない。

そんな中央ヨーロッパで、最先端の省エネ建築として普及しつつあるのがパッシブハウス基準である。ドイツのパッシブハウス研究所により1991年に確立された民間基準で、冷・暖房、家電、給湯のエネルギー消費量に厳しい上限値を設けている。平均的なパッシブハウスの建物は、外壁を25~40㎝の断熱材で覆われ、窓には断熱三層ガラス、換気設備には排気の熱を回収するタイプのものが用いられる。

高度な断熱・気密性能のおかげで、パッシブハウスでは僅かな熱量で全館を20度に保つことができる。一本のロウソクからの熱(30W)で3㎡を暖房できるほどだ。スイスパッシブハウス振興会の代表陣の1人で、自らパッシブハウスに住むシュテファン・ミシュラーさんはこう語る。

「パッシブハウスでは屋外がゼロ度でも、時折太陽が照り、通常の人数が住宅を使っているならば、室温は下がりません。暖房が必要となるのは大抵、外気温がゼロ度以下で日射のない天気の時です。」

とはいえ真冬の曇天時に何日間も暖房ができないようなケースでも、室温が15度以下になることはまずないという。

パッシブハウス基準で建てられたミシュラーさんの自宅の広さは300㎡。7人の家族が暮らし、2人が働く事務所も入る。2004年当時の建物購入価格は坪72万円程度。冬の日射を室内に招き入れる大窓が解放感のある空間を作っている。

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

執筆記事一覧
キーワード:

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..