野田首相の「冷温停止宣言」は受け入れられない

野田佳彦首相は12月16日、首相官邸で記者会見し、東京電力福島第1原発について、原子炉の冷温停止状態の達成を宣言した。これに対して、国内だけでなく、多くの海外メディアからも「時期尚早」との批判の声が続々と上がっている。

政府によれば、冷温停止とは「原子炉内の温度が100度未満となる状態」だという。これは政府と東電が作った工程表で原子炉の安定化の節目「ステップ2」の完了目標とされてきた。

残念ながら、この冷温停止宣言は受け入れられない。ポイントは4つある。

①福島第一原発ではメルトダウンに続いて、格納容器の底が抜けるメルトスルーまで引き起こした。東電は、1号機で圧力容器内の核燃料の大半が格納容器に溶け落ちたと推測している。これでは正確な温度測定など望めない。2号機では11月に放射性キセノンが検出され、再臨界が疑われる事態となった。それを「冷温停止」という、あたかも安定した状態のような表現を使うのは、総理大臣による「偽装」である。

②現在、福島第一原発から、日量でどれくらいの放射能が漏れ続けているのか、その説明がない。同原発を巡っては、放射能の累計放出量すら明確になっていない。「停止」と銘打つのであれば、温度ではなく、放射能の放出が完全に止まってからにするべきである。

③「この度、原子炉の安定状態が達成されたことによって、皆さまに不安を与えてきた大きな要因が解消されることになると考えます」などと、あたかも放射能による健康被害が無くなるかのような表現を使い、国民に大きな誤解を与えた。

④日本は大量の放射能を、国内だけではなく、周辺国の領土・領海に拡散させたのにもかかわらず、16日の記者会見では、周辺諸国に対する謝罪のコメントは皆無だった。日本が国際社会の一員であるという認識と、地球環境や生態系に悪影響を与えたことについての罪悪感が欠如していた。

もともと政府と東京電力の「工程表」は、原発事故からわずか一カ月後である4月17日に「3-6カ月後」と設定され、その後「2012年1月まで」と後方修正された。野田首相は今回、「来年初頭に達成する目標を前倒しした」としているが、実態は工程表との単なる「つじつま合わせ」に過ぎない。

今後、福島の地域住民には白血病や甲状腺ガンなど大きな健康被害が出ると予想される。欧州放射線リスク委員会(ECRR)は「住民がそこに住み続け避難しないと仮定するなら、40万人以上が白血病やガンを発症するだろう」と指摘した。

それにしても不可解なのは、野田首相が東京電力と一蓮托生の道を選んだことだ。今後、福島第一原発で新たな異変が起きれば、今回の冷温停止宣言に対する責任が問われ、即時の退陣は免れない。

国民としては、東京電力に対して毅然とした態度を取り、厳しい措置を取らない限りは、政権に対する信頼感は得られない。その意味で、「冷温停止」したのは原子炉ではなく、野田政権であると言わざるを得ない。

(オルタナ編集長 森 摂)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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