「年20ミリは喫煙や肥満よりも安全」の強弁

福島第一原発周辺の空間放射線量分布(原子力災害対策本部資料から引用)

政府は26日に原子力災害対策本部の会合を開き、東京電力福島第一原発事故にともない設定された避難区域の見直しについての方針を発表した。現在の避難区域を早ければ来年4月にも廃止し、新たに年間の積算放射線量が20ミリシーベルト以下の地域を「避難指示解除準備区域」として除染作業を進め、段階的に住民の帰還を実現する。この年20ミリ以下という基準は、政府の作業部会が22日にまとめた報告書での「年20ミリの被ばくによる健康リスクは、喫煙や肥満よりも低い」との見解を踏まえたものだ。

■現在の避難区域を3区域に再編

現在、避難区域は福島第一原発から半径20キロメートル以内の警戒区域と、年間放射線量が20ミリシーベルト以上を超える可能性がある計画的避難区域の2つが設定されている。見直し方針では、新たに50ミリシーベルトを超える地域を「帰還困難区域」、20ミリシーベルトを超えて50ミリシーベルト以下の地域を「居住制限区域」、20ミリシーベルト以下を「避難指示解除準備区域」の3区域に再編する。

避難準備解除区域では除染作業を実施し、年間放射線量を段階的に引き下げた上で区域を順次縮小し、避難者の帰還を実現する計画だ。

■作業部会には何と原子力委員会委員長も

ところで、今回の見直し基準のもととなった政府の「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」の報告書では、年20ミリシーベルトの被ばくのリスクが喫煙や肥満、野菜不足と比較して相当に低いとの見方が述べられている。

しかし低線量被ばくが人体に与える影響は不明な点が多い。何よりも喫煙や肥満など、個人の好みや選択に基づく健康リスクと、原発事故にともない強いられた被ばくの健康リスクを同列に扱うのは不当だ。

同ワーキンググループは、低線量被ばくの健康リスクは低いとの見方に立つ長瀧重信・長崎大名誉教授、東電原発事故後の4月にシンポジウムで「原子力発電を続けるしかあるまい」と語った前川和彦・東大名誉教授が共同主査を務める。また日本の原子力政策を進めてきた近藤駿介・原子力委員会委員長も出席者に名を連ねる。(オルタナ編集部=斉藤円華)2011年12月27日

政府作業部会報告書(PDF)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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