「放課後NPO」が提案、TVゲームや塾だけではない放課後の過ごし方

できあがった切り干し大根の煮物の味見をする子どもたち。最近では、煮物を食べない子どもたちが多いという

普通なら静まりかえる午後4時の教室に、子どもたちの明るい声が響く。

「切干大根は生より甘いね」「お日様の力ってすごい」

東京・中野にある新渡戸小学校の放課後の家庭科室で、「こども赤かぶ塾」と呼ばれる調理実習が行われた。参加したのは小学1年生5人。この日は、生の大根、1週間干した大根、2週間干した大根を食べ比べた。太さや辛味の違いを実感した後は、切り干し大根の煮物づくりに挑戦した。

■ 実施回数は800回、2万5千人以上が参加

教室を利用した体験型の放課後プログラムを企画・運営しているのは、放課後を突破口に市民の教育参画を目指す「放課後NPOアフタースクール」(東京・港)だ。こども赤かぶ塾には、有機野菜や無添加食材などの宅配サービスを行うらでぃっしゅぼーやが協力している。

放課後NPOアフタースクールは、2005年の活動開始以来、和菓子づくり、棟梁との家づくり、落語などこれまで800回以上のプログラムを放課後の学校で実施してきた。小学生を中心に累計2万5千人が参加した。私立校で実施する場合は費用が発生することもあるが、基本的には無料で参加できる。

平岩国泰代表理事(37)は、自身の子どもが生まれた30歳の時、現代の子どもの「無気力」「体験不足」や子どもを取りまく環境に不安を感じた。

学校には、広い校庭、体育館、音楽室など豊富な場所資源がある。地域には、人生の先輩である「市民先生」もいる。学校と市民をつなげた有意義な放課後の過ごし方を提案できないか。そこで、平岩代表理事は、「放課後が変われば教育が変わる」という理念で、NPOを立ち上げた。

■ 小学6年生の半数が通塾経験を持つ

公立小学校に通う児童を対象にした文部科学省の調査(2008年発表)によると、塾に通っている小学1年生は14.7%、小学2年生で18.3%、小学3年生が20.2%だった。小学6年生になると35.6%で、「かつて通っていた」という9.6%と合わせると、半数近くが学習塾に通った経験を持つ。

共働きの場合、子どもを一人で留守番させるより、塾に行かせる方が安心だという声もある。小学校に上がった子どもを預けられる施設が少ないからだ。平岩代表理事は、「塾を否定するわけではない。でも、子どもたちの溢れるパワーと可能性を机とイスにしばりつけてしまって良いのだろうか」と疑問を投げかける。

■ 小さな体験が子どもの自信に

できあがった煮物の味見をする子どもたち。先生の「味は濃い?薄い?」という問いかけよりも、AKB48の歌を歌うことに夢中だ。家庭科室には子どもたちのパワーが溢れる。

子どもたちは自分たちで、左にごはん、右に味噌汁、箸は箸置きに自然にセット

「子どもはきっと、教えたことのほとんどを忘れてしまっているでしょう。でも、『美味しい』『楽しい』といった体験で得た小さな気付きは、自信につながっていくはず」。こども赤かぶ塾の先生を務めるらでぃっしゅぼーやの中村真知さんは、楽しそうに話す。

煮物ができあがると、子どもたちは自分たちで、左にごはん、右に味噌汁、箸は箸置きに自然にセットした。

平岩代表理事は「将来は子どもたちだけでなく、大人も集える場所になれば。放課後の学校を子どもたちにとって安全で新たな学びの場にしたい」と決意を語る。(オルタナ編集部=吉田広子)

 

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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