福祉作業所の安すぎる月給をロボットの助けで大幅増を目指す

記事のポイント


  1. 龍谷大などは障がい者の作業をロボットが支援する工福連携を実現した
  2. 人とロボットが役割分担してセンサーデバイスの製造を行う
  3. 平均の時間給が233円のB型事業所の賃金の大幅増を目指す

龍谷大学などは障がい者の就労支援作業で、ロボットが支援する工福連携を行う。人とロボットが作業を分担して、センサーデバイスの製造を行う。厚生労働省によれば就労継続支援B型事業所の平均賃金は月額約1万6千円。時間給にすると233円だ。今回の取り組みを通して、賃金の大幅増を目指していく。(オルタナ編集部・萩原 哲郎)

南山城学園の就労継続支援B型事業所「魁(さきがけ)」に導入されたロボットを活用したセンサーデバイスの製造ライン

■プロジェクトは2021年から

今回のロボットが支援する工福連携プロジェクトは、社会福祉法人の南山城学園(京都府城陽市)が2021年6月にスタートした。龍谷大学や京都大学、和歌山大学、川崎重工、JOHNAN(京都府宇治市)が協働した。

このプロジェクトは、就労継続支援B型事業で施設利用者とロボットが協働して、より付加価値の高い製品をつくる工福連携を実現しようとするものだ。

サステナX

昨年11月に、南山城学園の就労継続支援B型事業所「魁(さきがけ)」にロボットなど一連のラインを導入した。

製造しているのは、センサーデバイスだ。これまでは製造業に関連する作業でも、ネジをつけたり、箱を組み立てるなどの単純作業が多かった。「魁」の赤塚信隆施設長は「そもそも、就労支援の事業所でセンサーデバイスをつくるという発想はなかった」と話す。

センサーデバイスの製造工程では、施設利用者、ロボット、そして職員が役割を分担して作業する。

施設利用者は部品の加工、基盤への部品の挿入、ロボットラインの操作を行う。ロボットは、画像診断で部品挿入が正しく行われているかのチェックとはんだ付けを行い、施設職員ははんだ付けが完了したセンサー基盤の動作テストを行う。

■社会貢献ができる製品を生み出し、賃金水準の向上へ

就労継続支援B型事業所の平均賃金は月額約1万6千円だ。時間給にすると233円。各都道府県の最低賃金の平均は966円で、B型事業所の時間給は最低賃金の4分の1以下だ。

人とロボットの協働による工福連携では、付加価値の高い製品をつくることで平均賃金の大幅増を実現することができる。赤塚施設長は「協働型ロボットを用いた工福連携単体でみれば、平均賃金の倍増、さらにそれ以上の水準も十分に期待できる」と話す。

赤塚氏は「社会福祉が担うからこそ、社会にとって必要性の高いものを製造していきたい」とも言う。たとえば、河川の氾濫を監視するためのセンサーなどだ。ベンチャー含めて様々な企業との連携に力を入れる。

■産学連携の意義も大きく

産学連携で取り組めたことも意義深い。プロジェクトに携わった、龍谷大学ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンターの並木洲太朗研究員は「障がい者福祉施設が大企業や大学と連携するケースは珍しい」と話す。

今回のプロジェクトでは、参画した事業者や大学などの知見やノウハウを活用した。

川崎重工はロボット「duAro2」導入とロボット操作の研修を行った。JOHNAN(京都府宇治市)はロボとラインの設計・製造、職員の研修に携わった。

教育機関もで役割を果たした。京都大学はケガや事故などを防ぐリスクアセスメントガイドラインの作成、和歌山大学はセンサー基盤を開発した。

「魁」での取り組みが順調に推移すれば、B型事業所の安すぎる賃金を変えるモデルケースとなりそうだ。

2014年から不動産業界専門新聞の記者職に従事。2022年オルタナ編集部に。

執筆記事一覧
キーワード: #CSR

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。