記事のポイント
- 英国政府は2024年にZEVの販売を義務化する規制をかけた
- メーカーは新車販売のうち22%をZEVにしなければいけない制度だ
- 業界から反対の声が多くあがった制度だがうまくいったのか
英国政府は2024年に「ゼロエミッション車(ZEV)販売義務制度」を導入した。自動車メーカーに新車販売のうち22%をZEVにすることを求める制度で、遵守できない場合は罰金を課すものだ。業界からは反対の声が多かったが、ZEV義務化はうまくいったのか。(国際環境NGOグリーンピース・ジャパン・気候変動・エネルギー担当=塩畑真里子)
英国は産業革命発祥の地として、18世紀以降、温室効果ガス(GHG)排出量を積み上げてきた国だ。一方、21世紀に入り、特に過去15年間、政権交代が起きても世界的に見ても野心的な脱炭素政策を形成し、実行してきた国でもある。昨年9月には最後の石炭火力発電所を閉鎖したことも話題になった。
2024年は、「ゼロエミッション車(ZEV)販売義務制度」を導入した年でもあった。これは、各自動車メーカーが販売する新車のうち、初年度の2024年は、最低22%はZEVにすることを義務付けるものだ。この比率を毎年段階的に上げ、2030年には80%にする。
この規制を遵守する方法としては、①販売全体に占めるバッテリー電気自動車(BEV)の割合を上げる②BEV販売割合を上げつつガソリン車やハイブリッド車の平均排出量を下げる③将来販売するZEVの割合を高めることにコミットし、そこから生まれるクレジットを前借りする④比率をすでに上回った別の自動車会社からクレジットを購入する――といった柔軟な選択肢を設けた制度でもある。
規制を遵守できない自動車メーカーには罰金を課す。そのため制度導入前は、トヨタなどBEVの販売台数が少ない会社は実施に抵抗していたとされる。
■英のBEV販売比は20%、EU平均以上に
結果としては、2024年にこの規則を遵守できず罰金を支払わなければならない会社はゼロであった。唯一、いまだに英国でBEVを一台も販売していない日本のスズキだけが他社からクレジットを購入することが必要になったが、すべての会社がいずれかの方法で規則を守ることができた。
ZEVの普及を誘導する政策によって道路を走るゼロエミッション車が増えることになった。昨年のBEV販売割合は20%に達し、EU平均の14%を大きく上回った。
日本のメディアでは、「政策誘導でBEV普及を図ることは困難」という論調を見かける。この英国のケースは、EV販売割合が義務化されたタイミングで、BYDなどの安価な中国製EVも市場に出始めたため、伝統的な自動車会社も安価なBEVを提供しなければならない状況ができた。その結果としてBEV販売の競争が生まれたことを意味している。
■ZEV政策「緩和」に批判の声相次ぐ
従来は、より収益を生み出すSUVなど大型BEVの製造と販売が優先されていたが、より手の届きやすい価格のBEVを提供しなければならなくなった。
4月に入り、トランプ政権による関税発動で自動車産業の救済策として、英国政府はこのZEV政策の緩和を発表した。
しかし、すでに過去3年間でBEVや電池製造に230億ポンド(約4兆4500億円)もの投資をしており、この段階でこの政策を緩和してしまうことの是非は批判的な声も強い。今後、この政策の行方が注目される。