トランプを生んだ「三つの病」(田坂広志)

■雑誌オルタナ82号:オルタナティブの風(36)

現在、トランプ政権の一挙一動に、世界が振り回されている。しかし、これは、 トランプ政権が「原因」となって、世界の政治的、経済的、社会的な諸問題が起きているのではない。

真実は逆である。すなわち、世界の政治的、経済的、社会的な諸問題が「原因」となって、トランプ政権という「最悪の現象」を生み出しているのである。 これまで世界が根本治療せずに放置してきた「病」が、トランプ政権という「最悪の症状」を生み出しているのである。

その第一の病は、現在の資本主義の 「歪み」である。それは、世界中で貧富の差を拡大し続け、米国でも生活困窮層を大量に生み出してきた。その生活困窮層の不満や怒り、絶望感が、かつてのドイツのナチス政権誕生と同様、専制主義的政治を求め、虚偽の主張と誇大な幻想を振り撒いたトランプを大統領に押し上げたのである。されば、現在の資本主義の歪み、格差の拡大と貧困層の窮乏を解決しない限り、世界中にポピュリズムと結びついた専制主義が広がっていくだろう。

第二の病は、現在の民主主義の「脆弱さ」である。実際、民主主義を守り、専制政治を抑止するための「三権分立」という制度さえも、トランプ政権によって、いともたやすく壊されてしまった。 その現実を、我々は、「民主主義の手本」 であるはずの米国において、目の当たりにしているのである。

そして、こうした歴史の逆行が起こる理由は、民主主義を掲げる勢力が、しばしば「理想主義」の自己陶酔に流されるからである。その甘さが、専制主義に走る勢力の「現実主義」のしたたかさに敗れ去るからである。

第三の病は、現在の自由主義の「劣化」である。本来、自由主義が健全に機能するためには、他者や弱者に配慮する 「共感や博愛」「倫理や道徳」「公共意識」 「社会貢献」などの価値観が不可欠であるが、現在の世界は、個人から国家のレベルに至るまで「自己中心的」な価値観が蔓延している。

例えば、「米国第一」は、心地よい響きを持ち、それがトランプ政権を誕生させたのであるが、その根底にあるのは「世界の他の国のことなどどうでも良い」「未来の世代のことより自分の世代だ」という思想であり、それが、途上国支援の廃止や温暖化対策の軽視などを通じ、世界全体の発展と未来世代の福祉を毀損してしまうのである。

このように、これまでの世界が、資本主義の歪み、民主主義の脆弱さ、自由主義の劣化という「三つの病」を放置してきた結果がトランプ政権という「最悪の症状」を生み出したことを、我々は、 理解すべきであろう。

されば、いま、我々が為すべきは、トランプ政権の惨状から深く学び、資本主義、民主主義、自由主義の抜本変革に取り組むことであろう。

21世紀アカデメイア学長、多摩大学大学院名誉教授、田坂塾塾長。81年、東京大学大学院修了。工学博士。87年、米国パテル記念研究所研究員。90年、日本総合研究所の設立に参画。取締役を務める。00年、多摩大学大学院教授に就任。同年シンクタンク・ソフィアバンクを設立。08年、世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Agenda Councilメンバーに就任。11年東日本大震災に伴い内閣官房参与を務める。13年、全国から8600名の経営者やリーダーが集まり「7つの知性」を学ぶ場、「田坂塾」を開塾。著書は100冊余。

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キーワード: #サステナビリティ

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