会場に着くと、会費1万円と割高なのにも関わらず、定員200人がほぼ埋まっている。聴衆の熱気に、まず驚かされた。年齢層も若者からシニアまで幅広い。
セッションの口火を切ったのは、アダム・カヘン氏(レオス北米会長)。南アフリカの人種差別やコロンビアの政府と麻薬組織の対立など、解決が極めて困難な社会的対立において、「シナリオ・プランニング」と呼ぶ対話手法で、解決の糸口を提供したという。
カヘン氏の講演で印象的だったのは、「シナリオ・プランニングは、将来の可能性を何通りも考えることだが、決してこうあるべきとか、こうでなければならないと決め付けてはならない」という言葉だ。
組織の方向性を定める「バックキャスティング」という手法では、「未来のあるべき姿」を起点にするが、シナリオ・プランニング」は、そうではないという。意見が違う人たち、対立した利害関係者たち、さらには政敵や敵対関係同士をも一堂に集めるためには、結論を先に決めてはならないのだ。
むしろ、対立している人間たち、政治勢力を一つの場所に集めるところに、まず最初の大きな意義があるのだろう。
カヘン氏は「シナリオ・プランニング」の同義語として「ストーリー・テリング」という言葉も何度も口にした。いま、企業の非財務情報(ESG)の発信手法として注目されている言葉だが、過去や現在の「物語」ではなく、さまざまなステークホルダーと「未来を語り合う」ことに力点が置かれているように思えた。
CSRの世界でも、「対話」が最も重要な機能の一つとして注目されている。だが、「日本企業によるステークホルダー・ダイアログの多くは『儀式』の域を出ない」と多くの識者に批判されている。(オルタナ編集長 森 摂)
(この続きは、朝日新聞社WEBRONZAの筆者連載コーナーと月刊誌「月刊総務」連載コラムに近日掲載します)