欧州企業が関心を高める「水リスク」とは何か――下田屋毅の欧州CSR最前線(21)

在ロンドンCSRコンサルタントの下田屋毅氏

「水リスク」は、最近欧州企業の中で関心が高まってきたCSRの項目の一つである。2012年10月末に「水リスク」についての会議がロンドンで開催され、多くの企業が参加した。1年前と比べても、参加者数や関心を寄せる企業の数が格段に増加している。

「世界経済フォーラム(ダボス会議を運営する非営利財団)」が、2012年に発行した「グローバルリスクレポート2012」の「社会的リスク」の中で、食糧と水不足の危機が今後10年間で発生する可能性が非常に高くなっていると報告されている。

この報告書では、社会的リスクの重心は、「持続不可能な人口増加」で、「水供給の危機」と「食糧不足の危機」は非常に強い関連性がある。「水供給の危機」の影響が最も大きく、発生する可能性が高く位置付けられる。その次に「食糧不足の危機」が続く。

企業が最近、「水リスク」に関心を寄せる背景として、英国のNGOカーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)の影響がある。CDPは、近年、水に関する情報開示「CDPウォーター・ディスクロージャー」を企業に求め始め水資源への影響を調査対象としている。

CDP水と投資家イニシアチブ部長であるマーカス・ノートン氏は、「投資家は水リスクに気づき始めている」と話す。

「水の問題の戦略的重要性は継続して高まっている。水リスクと機会へ対応する枠組みに関する水のスチュワードシップ(受託責任)戦略、企業が水に関連するチャレンジへの対処と機会を資本化する効果的な手段として、共同行動が重要となってきている」(ノートン氏)

英国調査会社アイリス調査部長のカルロタ・ガルシア-マナス氏は、「水リスクに関して投資家は関心を寄せており、企業の潜在的な水のリスク、企業はどのように水リスクを管理するのか、企業はどのように水の管理について情報開示するのかに関心を持っている」という。

西欧を中心に展開するコカコーラ・エンタープライズ社は、水の受託責任として「水の効率的使用基準を設定し、水使用に関する持続可能な操業、そしてバリューチェーン全体を通して水の影響を最小化する」とコミットメントをしている。

特に製品のバリューチェーンでのウォーター・フットプリントを計算、コーラなどの飲料1リットル当たりの水の使用量を2007年の1.67リットルから年々削減し、2011年は、1.43リットルとした。そして、2020年には1.2リットルをターゲットとして削減努力を続けていく計画だ。

英国の衛生用品を手掛けるレキットベンキーザー社は、自社でカーボン・フットプリントを把握しているシステムをベースにウォーター・フットプリントの算出・削減に着手する。

さらに「ウォーター・フットプリント・ネットワーク」のメソッドを使用し、WWFとも連携して実施する。また、自社の製品を消費者が使用する際に水の使用が少なくて済むように製品のイノベーションを意識した開発努力をしている。例えば、液体せっけんの使用の際に消費者が水の使用を以前より15%削減できる製品の提供などである。

世界自然保護基金UK(WWF-UK)の上級水政策アドバイザーであるコナー・リンステッド氏は水リスクに関して、「水リスクについて理解すること。水リスクに対処する際には共同行動が必要不可欠。そして、企業のオペレーション、サプライチェーン、ステークホルダー、水政策/企業統治のレベルにおいて行動することが必要」と述べている。

2012年10月、KPMGは世界の大企業250社のCSRレポートの水不足に関する記載について調査報告書を発行している。

この報告書によると、

①世界の大企業250社の76%は、水の問題について自社のCSRレポートに記載している。

②傾向として、水不足に深刻に悩まされている国の企業のCSRレポートは水の使用について記載があり、水が比較的豊富な地域の国の企業のCSRレポートには記載が少ない。

③世界250社の3分の1は、企業全体のウォーター・フットプリントについて開示しており、5分の1の企業が、企業の一部のウォーター・フットプリントについて開示している。

④世界250社のうちたった3社しか、サプライチェーンの部分的なウォーター・フットプリントについて記載していない。サプライチェーン全体のウォーター・フットプリントについて記載している企業はゼロである。

⑤世界250社の44%が、CSRレポートで水使用の削減プランの記載している。約27%の企業が排水・汚染水の処理を実施していると報告している。

⑥世界250社の実に60%が、CSRレポートにおいて水不足への対処についての長期的な戦略を発表していない。鉱山、自動車、薬品業界の企業が、その戦略について報告する可能性が最も高くなっている。

⑦世界250社のたった10分の1の企業が、水利用の変化に適応していく、または、自社とそのステークホルダーへの水不足の影響を軽減することを報告している。

このように世界では、サプライチェーン、バリューチェーンを意識した水のリスクについて検討し始めている。投資家を含むステークホルダーからは、海外拠点、そして、サプライチェーン、バリューチェーンの水のリスクに関して理解することが期待されている。(在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅)

shimotaya_takeshi

下田屋 毅(CSRコンサルタント)

欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ASSC(アスク)代表理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。執筆記事一覧

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