企業のCSRの観点から子どもの人権を考える――下田屋毅の欧州CSR最前線(10)

在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅氏

国連グローバルコンパクト、ユニセフ、セイブ・ザ・チルドレンは2012年3月12日、「子どもの権利と企業行動規範(Children’s Rights and Business Principles)」を発表した。

企業活動の中で、どのように子どもを尊重しサポートするかに関する実践的な指導原則で、2010年6月にイニシアチブを立ち上げ、討議してきた。

この3つの団体のイニシアチブは、企業が職場、ビジネス市場、コミュニティにおける全ての企業活動において子どもの権利を尊重しサポートするというものである。

新興諸国や発展途上国とビジネスを実施している日本企業は、「人権問題は海外だけのこと」と考えるのではなく、サプライチェーンの上流で子どもの人権侵害が顕在化し、自社への評価に傷が付くリスクが増大していると考えて活動するべきだ。

今回この企業行動規範は、サプライチェーンにおける児童労働、両親の役割をサポートする職場環境を整えること、そして、製品が子どもたちを傷つけないことを確証することなど多くの分野をカバーするもので、大きく分けて10の原則が掲げられている。

この行動規範の中で、企業は、大きく分けて次の10原則を守ることを奨励されている。

原則1:子どもの権利を尊重しサポートする責任を満たすこと

原則2:すべての企業行動と企業関係において児童労働の根絶に貢献すること

原則3:若年労働者、両親、介護者に対し働きがいのある人間らしい仕事を提供すること

原則4:全ての企業行動と設備の中で子どもたちの保護と安全を確保すること

原則5:製品やサービスが安全であることを確保し、そしてそれら製品やサービスを通して子どもたちの人権をサポートすることに努めること

原則6:子どもの権利を尊重しサポートするようなマーケティングや広告を使用すること

原則7:環境に関わることや用地取得と使用に関わることに関して子どもの権利を尊重しサポートすること

原則8:安全体制における子どもの権利を尊重しサポートすること

原則9:緊急事態に子どもたちを保護することを手助けすること

原則10:子どもの権利を保護し満たすためにコミュニティと政府の取り組みを強化すること

この人権問題に企業が取り組む上で国際的な原則となっているのが、国連事務総長特別代表であるジョン・ラギー教授が提唱した「ビジネスと人権に関する指導原則:国連「保護、尊重、及び救済」フレームワーク(通称:ラギーフレームワーク)」(2011年3月)である。

今回ご紹介した「子どもの権利と企業行動規範」はもちろん、ISO26000 やOECD 多国籍企業ガイドラインの改訂、そして欧州委員会の新CSR戦略にも大きな影響を及ぼしている。これは、全ての企業に適用されるもので、人権における基本的なルールを設定している。

この保護、尊重、救済フレームワークは、大きく次の3つが中核となっている。

①     保護(Protect):国家の責務として人権保護、

②     尊重(Respect):企業の責任としての人権の尊重、

③     救済(Remedy):企業活動の結果により人権侵害を受けた人への救済手段へのアクセスの必要性、である。

例えば企業が人権や子どもの権利にどのように影響を与えているかを評価する「人権デューデリジェンス」(人権への負の影響を特定し、防止し、軽減し、そしてどのように対処するかに責任を持つために企業が実行すべきステップ)、また「加担の回避」(企業による間接的な人権侵害の回避)を企業が実施することを求めている。

ユニセフの調べでは、世界にはいまだ約2億1500万人もの子どもたちが児童労働を余儀なくされている状況が続いている。

日本では当たり前のように確保されていると考えられている子どもの権利が、世界では人権の問題としていまだ解決できていない。(在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅)

shimotaya_takeshi

下田屋 毅(CSRコンサルタント)

欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ASSC(アスク)代表理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。執筆記事一覧

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