英ロンミンの労使紛争、日本企業が学ぶべきこと ――下田屋毅の欧州CSR最前線(17)

在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅氏

英国のプラチナ製造販売会社である「ロンミン」の南アフリカのマリカナ・プラチナ鉱山で、8月16日、ストライキ中の労働者が警官隊と衝突。警官隊の発砲により、34人の死者と78人の負傷者が出るという悲劇が発生した。

今回の事件は、ストライキ中の労働者と警官隊の衝突が中心のニュースとなっているが、主要な問題は、労使交渉であり、労働者側の賃上げ・労働環境の改善の要求だ。

事件の背後にあるのは、2つの労働組合。鉱山労働者建設連合(AMCU)と鉱山労働者全国組合(NUM)である。AMCUは、2万8千人の従業員のうち、23パーセントを占め、近年急速に拡大、過激派組合として賃上げ要求を繰り返している。2つの組合は賃金交渉でお互いを出し抜こうとしていた。

ロンミンは英国のプラチナ生産大手で、プラチナの生産量は世界3位であり、南アフリカ共和国の生産拠点を中心に事業展開している。主力鉱山は世界最大級のプラチナ鉱山であるマリカナ鉱山。この鉱山からの生産だけでロンミンの年間のプラチナ総生産量の約90%を占める。

ロンミンは、GRIをベースに「持続可能な開発報告書」を発行し、A+の評価を受け、 FTSE4GoodとJSE SRIに上場している企業でもある。

南アフリカには、1994年まで「アパルトヘイト(人種隔離)政策」があり、黒人を中心とした有色人種に対する人種差別があった。アパルトヘイト後、人種差別に関する事項は改善していったが、失業率は増加、職業差別は依然残っている。

南アフリカでは、政策的に黒人の起業家をサポートする「ブラック・エコノミック・エンパワーメント政策(BEE政策)」によってテコ入れしていったが、この政策による黒人間での貧富の差の拡大も問題視されている。

このような背景下での労使紛争だが、労働組合の暴動を抑えるため、警官による発砲・死者を出す事件に発展した。今回のロンミンのマリカナ鉱山は、ロンミンのジョイントベンチャー企業の管理下にあり、この関係性においての対応が求められているものである。

これは日本の企業が新興国や発展途上国に進出し、子会社や合弁会社を立ち上げて事業を実施する中、様々な労使交渉が発生することを意味している。

一般的に、企業と労働組合との関わりで配慮すべきことには労使の対話がある。労使双方の優先的なテーマやニーズに配慮した方針をつくり、問題を解決することを目的とする。これは、職場における参加を通じて建設的な労使関係を構築するなど、労働慣行において、重要な意義を持つ。

日本における企業の労使関係は、長期間を掛けて関係を徐々に構築してきたということもあり、関係が良好な場合が多く、交渉相手も限定される。しかしながら、海外での労使関係は、日本の労使関係の状況とは異なり、より複雑なものとなっている。

欧州委員会のCSR戦略では、大企業は、CSRへの取り組みを発展させるにあたり、2014年までに、国連グローバルコンパクト、多国籍企業に対するOECDガイドライン、ISO26000、をベースにCSRプログラムを作成する、また、多国籍企業は、ILO多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言を尊重すると約束することとしている。

この事からもCSRの労働慣行についてのグローバルスタンダードとしての考え方である「組合結成の自由と団体交渉の権利を実効あるものにする」に関して、日本企業は対応を迫られることになるだろう。

このロンミンのケースは、日本企業に極端なケースとして考えられるのかもしれないが、海外の企業が直面している事実であり、検討材料の一つとして加えておく必要がある。

「労働は、商品ではない」というフィラデルフィア宣言の労働慣行の基本原則をベースに、特に海外・新興国へ進出している企業は、現地での重要なステークホルダーである従業員との対話、労使関係について体制が十分かどうかを検討する必要がある。(在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅)

 

shimotaya_takeshi

下田屋 毅(CSRコンサルタント)

欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ASSC(アスク)代表理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。執筆記事一覧

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