バングラデシュにおける工場火災から学ぶこと――下田屋毅の欧州CSR最前線(20)

在ロンドンCSRコンサルタントの下田屋毅氏

11月24日夜、バングラデシュ首都のダッカ近郊の衣料品工場で火災が発生。少なくとも112人が死亡、200人以上が重軽傷を負うという同国史上最悪という痛ましい災害が発生した。これは夜勤中の火災でその当時、従業員約2千人が働いていた。

出火場所は9階建ての工場1階部分の倉庫で発生。工場の出口には労働者が脱走しないように鍵がかけられていたとの証言があり、窓ガラスを割って脱出した人や、上層階からは窓から飛び降りるなどして死亡者も出た。

従業員のほとんどは女性。バングラデシュ政府は火災の原因を放火の疑いがあるとして捜査を続けている。バングラデシュの多くの工場では、防災設備や労働環境の不備が以前から指摘されており、約5年前から工場の火災で累計500人以上の方々が亡くなっている。

■ ウォルマートは契約を打ち切り

バングラデシュでは衣料品・縫製品産業が主要産業で、輸出全体の80%が繊維製品である。輸出額は中国に次いで現在世界2位。人件費は世界最低水準であるため、多くのアパレルメーカーが現地企業に生産を依頼している。

今回の火災を起こした工場の所有者は、ツバグループ傘下のタズリーン・ファッションズ社。火災当時、オランダのシー&エー社、香港のリー&ファン社をはじめ、様々なブランドの衣料品を製造していた。

米国のスーパーマーケットチェーンであるウォールマートは、当初この工場と関係性がないとしていたが、サプライヤーが無断でこの会社に下請けとして発注していたことが発覚。ウォールマートは、このサプライヤーとの契約を打ち切ったという。

ウォールマートは2011年、防火対策の専門家が、同社のサプライチェーン内のバングラデシュの工場を視察、バングラデシュの火災発生時の安全対策において、危険が非常に高い工場に対して警告し、49の工場との取引を停止していた。

2011年2月には、他ブランドや販売店と協働でサプライヤー160社の参加の下、サプライチェーンミーティングを開催、防火対策について協議。また、防火訓練用ビデオや訓練物資をバングラデシュの工場に提供し始めていた。このようにウォールマートはバングラデシュの工場の防火対策に既に疑問視し、対策に取り組んでいたという。

■ 日本企業が学ぶべきこと

この災害を対岸の火事とせず、学ぶべきこととしては以下が考えられる。

1)行動規範・倫理規程の再確認
多くの製造会社は、サプライヤーに「行動規範」や「倫理規程」などを提示、サプライヤーの工場労働者の労働環境・状態を管理・監督する措置を取っている。今回の火災を踏まえ、欧米企業の「サプライヤー行動規範」を確認してみたが、防火についての記載がない企業が散見された。

自社のサプライヤー行動規範に防火に関する記述があるか、今一度確認してみてはいかがだろうか。また、ウォールマートの例からも、これらの行動規範・倫理規程が、自社のサプライチェーンの中でしっかりと機能しているか確認する必要性があると思われる。

2)工場の労働環境改善
バングラデシュに限らず新興国・発展途上国の工場は、防火対策や安全衛生対策において不備があり危険性が高いと考えられる。

工場を視察し、このような危険性の高い工場に対しては警告、改善が見られない場合、取引停止をすることはリスクマネジメント上必要なことである。しかし、警告を発するとともに、さらに一歩踏み込んで防火対策や安全衛生対策について協議の場を設け、工場の安全衛生管理レベルの底上げにも貢献できると良い。

スウェーデンのアパレルメーカーであるH&Mは、「バングラデシュ開発プラン」を社内に設けている。同社は、バングラデシュの衣料品工場労働者の安全衛生水準の向上や職場改善に努めており、その中で衣料品工場の防火対策の不備を認識していた。他18社とともに2011年から防火対策を含む教育フィルムプログラムを開始。2013年までにバングラデシュの政府やサプライヤーとともにバングラデシュの約4500の工場、約300万人にプログラムを提供する予定だという。

同社は他メーカーとともに2010年バングラデシュの工場労働者の最低賃金の改善についてもイニシアチブを取って政府と交渉している。また、この開発プランには、工場労働者に対する暴力や差別に関する「ヘルプライン」の設置、「健康管理改善」、「職業訓練校の運営(他企業との協働)」や、学生に対する「奨学金制度(グラミン銀行との協働)」が含まれている。

このようにバングラデシュの低労働賃金を活用・搾取する構造としておくのではなく、サプライヤー工場労働者・コミュニティのエンゲージメントを実施、彼らがどのようにしたら幸せに、そして持続可能な形で働くことができるのかにも配慮している。

他にこの工場火災から学ぶこととして、初期消火活動や非難訓練を含む火災訓練の必要性がある。消火器、消火栓の場所の確認、また定期点検や、使用方法についても工場労働者と実施しておく必要がある。

一般的に工場の夜勤は、昼勤の場合と違い、安全衛生責任者の管理・監督が手薄になりがちである。夜勤時の火災・労働災害についての対応をしっかりと協議し、訓練しておく必要がある。サプライチェーン管理とともに自社工場における管理体制についても再確認されてはいかがだろうか。(在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅)

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下田屋 毅(CSRコンサルタント)

欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ASSC(アスク)代表理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。執筆記事一覧

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