エコ賃貸を始めてみたが、エコビジネスは難しい。(2)[小林 光]

賃貸でこそエコビジネスを

前回のこのコラムでは、我がエコ経営のフラッグシップ「羽根木テラスBIO」の環境側面を説明した。今回は、これを商売として見た場合に抱える問題を見てみよう。(慶應義塾大学教授=小林光)

■オーナーの悩み――エコ賃貸が少ないわけ

日本の住宅ストックの4割は賃貸である。この賃貸の環境性能は、持ち家に比べて大きく見劣りがすることが知られている。なぜだろうか。

この原因が何であるかは、自分がオーナーになってみてよくわかった。それは、賃貸経営に係わる様々なステークホルダーが皆そろってオーナーに安い賃料での経営を推奨するからである。

その背景には、賃貸住宅の賃料について、通勤時間と、広さ、築年数といった変数できれいに相場が確立していることがある。

広さと家賃の相関
広さと家賃の相関

住み手は、この3つの変数で決まる賃料を自分のレファレンスとして、住まいの選択をする。そうであれば、これら3つの変数で決まる相場に比べて高家賃の物件は、住まい手の獲得に苦労することとなる。

このため、例えば、オーナーに建築プランを進めるハウスビルダーも、本来は高額な建築費を要求したいだろうところを、いかに安く、そして、空室ができても損失のリスクがすくなくなるよう、小面積の多数物件を建築できるかを説明することになる。

論者自身も、何社ものハウスビルダーの訪問を受けたが、家賃の相場や利回りは淀みなく説明できるが、提案する建物のQ値(漏れる熱量の指標。小さいほど断熱性が高い)を説明できた営業担当者は、なんと全くいなかったので、大いにびっくりした。

また、建築資金を用立てる金融機関も、本来は多額を借りてもらいたいところを、空室リスクが高くなる高額物件を嫌い、返済の容易な物件への融資を好む傾向が見られた。高額物件をお作りになるオーナーには、アドバイスをしたり、あるいは、貸す金額を減らしたり、金利を高くしたりすることもあるとのことだった。危険な商売と見られているのだろう。

hikaru

小林 光(東大先端科学技術研究センター研究顧問)

1949年、東京生まれ。73年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、環境庁入庁。環境管理局長、地球環境局長、事務次官を歴任し、2011年退官。以降、慶應SFCや東大駒場、米国ノースセントラル・カレッジなどで教鞭を執る。社会人として、東大都市工学科修了、工学博士。上場企業の社外取締役やエコ賃貸施主として経営にも携わる

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