[映画評・赤浜Rock’n Roll]防潮堤を拒否した住民の思いとは

東日本大震災の大津波で、壊滅的な被害を受けた東北の三陸沿岸。国や県による防潮堤計画が進む中、岩手県大槌町の赤浜地区は巨大防潮堤によらない復興を選んだ。住民の姿を三陸の風景の中に記録したドキュメンタリー映画「赤浜Rock’n Roll」(小西晴子監督、2014年、90分)が5月2日(土)からケイズシネマ(東京・新宿)で上映される。(オルタナ編集委員=斉藤円華)

■「人間がつくったものは壊れる」

※映画「赤浜Rock’n Roll」から (C)ソネットエンタテインメント株式会社
※映画「赤浜Rock’n Roll」から (C)ソネットエンタテインメント株式会社

大槌町は津波で町の面積の85%が被害を受け、住民の10人に1人が命を落とした。この時、町に押し寄せた津波の高さは最大22メートルに達したという。

国が示した防潮堤計画の高さは14.5mに過ぎず、仮に東日本大震災級の津波が襲っても防げないのは明らか。しかし、住民が防潮堤計画を拒否するのは高さが足りないからではない。「防潮堤で海が見えなくなってしまう」。大槌町で被害が大きくなったのは、震災以前に造られた高さ6.4メートルの防潮堤によって、住民が津波を察知できずに逃げ遅れたことも影響しているという。

新たな防潮堤は、大槌町の中心部だけで260億円もの費用がかかるが、そもそも耐久年数は50年程度といわれる。その費用を立ち遅れる住宅や産業の復興に回すべきだ、と住民から声が上がった。

東北沿岸で防潮堤を拒否したのは「例外的」だが、赤浜の住民代表は「人間が作ったものはいつか壊れる」と話す。防潮堤はいらない、という選択は、時に牙をむく自然の前に謙虚であろう、とする姿勢の表れだ。

※映画「赤浜Rock’n Roll」から (C)ソネットエンタテインメント株式会社
※映画「赤浜Rock’n Roll」から (C)ソネットエンタテインメント株式会社

漁獲量の減少、生活再建の遅れなど、現地には問題が山積。しかし赤浜と大槌湾の風景はあくまで美しい。「津波で海はきれいになった。しかし人間が暮らすことで海は少しずつ汚れていく」と話す漁協組合長の言葉は、単に震災前に戻るだけでいいのか、と私たちに問いかけている。

映画「赤浜Rock’n Roll」公式サイト

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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