企業家精神とサステナブル・イノベーションを考える――大企業に求められる、ソーシャル・イノベーションのスケールアップ

フィリピンのように台風が多い地域では土壌浸食や土壌流出が大きい被害を生むため、生産されたマットは土壌浸食予防のために敷設される。本事例は貧困緩和、女性のエンパワーメント、気候変動が生む自然災害への準備という社会的ニーズに応えており、非常に革新的で秀逸な事例である。

こうした事例のように、持続可能な発展に資するビジネスで成功するには、5つの条件があると考えられる。

(1)競争ポジショニング戦略に、利益の最大化以外の目的を埋め込むこと。Friesland Campinaは利益以外にも、栄養に関するニーズに応えることを大きな目的としていた。社会的目的を持っていたことが、更なる利益につながった。

(2)自社がかかわれる社会的ニーズを理解すること。自社が持つ専門知識と資産を活用してニーズに応えることが必要である。

(3)経済的成果と社会的成果の関係の継続的評価を行うこと。インパクトを評価することが必要なのである。フィランソロピーはこれができていない。

(4)外部のパートナーと協創すること。企業は資源もアイデアももっているが、ほとんどの取り組みにおいてNGOや政府、地域がもつ独自の専門知識や経験が必要となる。

(5)上記4つに基づくイノベーション構造をつくること。現代の企業がもつシステムは、革新的になることを阻むものである。たとえば品質保証システムは失敗を許さない。失敗できないと経験が得られない。経験がないとクリエイティブになれず革新的にはなれない。

これらの条件は、社会的ニーズに応えていくソーシャル・イノベーションの機会をうみだし、持続可能な発展に貢献する共有価値を生み出すことになる。社会的インパクトと経済的価値を生み出す革新的なプロジェクトへの試みを積み重ねていこう。そうしたプロジェクトこそ複製可能で、スケールアップしていくことが可能なのだ。

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齊藤 紀子(企業と社会フォーラム事務局)

原子力分野の国際基準等策定機関、外資系教育機関などを経て、ソーシャル・ビジネスやCSR 活動の支援・普及啓発業務に従事したのち、現職。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了、千葉商科大学人間社会学部准教授。

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