錦鯉の群れと「生態系の構築」

このまま人々の餌やりが続き、コイの群れが、本来の池の許容量を超えて成長していくならば(その前に餌やりなどを原因とする水質悪化の結果、疾病、酸欠などで群れが失われることも十分あり得るが)、池の生態系は崩壊しかねない。

もちろん「生態系」と言っても様々な側面からの生態系がある。水槽の中のアロワナと、その餌として投入される金魚は、生態系を構成しているとは言わない。しかし、水槽の中の目に見えない微生物の世界では、その水槽なりの生態系があるのかも知れない。そういう意味では、巨大な錦鯉中心となり、生物相としては著しく貧弱化した池にも「生態系」はできるのだろう。しかし、それが管理者の意図した新たな生態系の構築なのだろうか。

生物多様性の保全は、「遺伝子の多様性の保全」、「種の多様性の保全」とともに「生態系の多様性の保全」からなる。

自然保護区ではない、都会の一角の人が管理する池に、どのような生きものを放すかは管理者に委ねられている。小さな子どもを含め、家族連れが気軽に錦鯉を愛で、楽しむことが出来る池を目指すということは、都市部の水辺の有意義なあり方の一つだ。この管理者の判断に異論をはさむつもりはない。

とはいえ、この池は学術機関が保有する大都市の中の貴重な緑地だ。ここで、新たな生態系の構築を大切に見守ってください、と呼びかけるときの「生態系」は、生物多様性の保全にも通じるものであってほしい。

コイによる池の生きものへの補食圧が過度なものとならないよう、餌やりの制限を含め、コイの群れの「総量」をコントロールしながら、色鮮やかな錦鯉の群れと、豊かな生物相が共存できるような取組みを、是非実現してほしい。

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坂本 優(生きものコラムニスト/環境NGO代表)

1953年生。東京大学卒業後、味の素株式会社入社。法務・総務業務を中心に担当。カルピス株式会社(現アサヒ飲料株式会社)出向、転籍を経て、同社のアサヒグループ入り以降、同グループ各社で、法務・コンプライアンス業務等を担当。2018年12月65歳をもって退職。大学時代「動物の科学研究会」に参加。味の素在籍時、現「味の素バードサンクチュアリ」を開設する等、生きものを通した環境問題にも通じる。(2011年以降、バルディーズ研究会議長。趣味ラグビー シニアラグビーチーム「不惑倶楽部」の黄色パンツ (数え歳70代チーム)にて現役続行中)

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