損保ジャパンが考える環境リスク管理

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1.リスク管理と予防原則
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2010年6月、損保ジャパンと損保ジャパン環境財団は共同編集で「環境リスク管理と予防原則」という本を有斐閣から出版した。この本は、環境経済・環境法学のそれぞれ第一人者である植田和弘、大塚直の両教授を共同座長にした損保ジャパン環境財団の研究会の成果を取りまとめたものである。多くの第一線の研究者のほか、損保ジャパン・損保ジャパンリスクマネジメントからも執筆に参加している。10月には出版記念シンポジウムも計画している。

*     (図表1)

予防原則は、巨大化する現代の環境リスクに対処するための意思決定の原則である。1992年のリオ宣言に明記されて以来、環境政策における原則としてEUをはじめ各国に受け入れられてきた。もともとは国の政策指針として提案された原則であるが、激しい論争や新たな解釈を伴いながら、各国の環境法等に取り入れられるだけではなく民間組織の行動原則としても浸透し、次第に市民権を得てきている。例えば国連グローバル・コンパクトや全ての組織のための社会的責任規格ISO26000においても、企業などの組織が支持・尊重すべき原則として言及されている。

*     (図表2)リオ宣言における予防原則

この原則の適用が考えられる分野には、化学物質管理、生物多様性、食品安全などがあるが、代表的なのは気候変動だろう。地球温暖化のメカニズムは複雑で、CO2主因説への懐疑論が後を絶たないように、原因を完璧に解明することはおそらくいつまでたってもできないだろう。しかし、だからと言って対策を講じない理由にすることはもはや許されない。逆に、予防的措置によって人類が気候変動を克服できたら、予防原則適用の最も輝かしい成功例となるであろう。

こうした地球環境問題では、我々が抱える将来のリスクは極めて大きく、また不確実性を伴う。人類の英知を結集した対処が必要であるが、その根本に据えるべきは予見的行動、つまり長期的視野にたちつつ、早い段階で対策をとることである。いち早くリスクを発見し、問題が起こる前あるいは大きくなる前に、小さなコストをもって予め対処する。こうした行動は、まさに損害保険会社が長年の事業のなかで経験と技術を蓄積し、その強みを生かすことのできる分野である。そしてこの、不確実な未来に対する可能な限りの予見的な行動は、ますますその重要性が高まっている。損保ジャパンは1992年のリオサミットの直後に地球環境室を立ち上げ、早くから地球環境問題の解決に取り組んできた。気候変動や生物多様性など地球規模の課題が深刻化する今、損害保険会社は自らの知見を、より積極的に他の組織や市民一人ひとりへ浸透させる努力をも求められているのではないだろうか。冒頭にご紹介した本の出版もその一助になることを願っている。

一方で、原因が明らかで不確実性は小さくても、あまりにも時間軸が長いために認識や対策が進まないリスクがある。例えば人口高齢化の社会的リスクを下げる重要な対策のひとつは成人病予防である。損保ジャパングループではヘルスケア・サービス事業にも力を入れている。遠い将来の潜在的なリスクの存在への気付きを促して警鐘を鳴らし、予防的措置を支援して個人の生活や社会の安定に資する。ここでも安全・安心で持続可能な社会の構築をめざしたグループ事業戦略の中に、損保ジャパンのコア・コンピタンスを生かしたCSRが位置づけられている。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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