WWFが見た国連気候変動ボン会議、パリ協定の行方

「緩和」「適応」「支援」の3分野をめぐって

このルールブック交渉は多岐にわたるため、一般化することは極めて難しいのですが、1つ典型的な対立点を上げるとすれば、緩和・適応・支援という3分野のバランスをめぐる議論があります。

たとえば、APAの議題項目の1つとして、今後、国別目標(NDC)に対して、一定の共通性を与えていくためのガイダンス(指針)を与えていこうという議論があります(上述の一覧の1つ目)。

素直に読むと、この議題項目は「緩和(排出量削減)」目標に関するガイダンスを設定していくと読めます。

このため、先進国は、各国が排出量削減目標を国連に提出するに当たっては、どういう情報を盛り込まなければいけないのか、といった点を中心にして議論をしようと主張します。

しかし、ここで複雑になってくるのが、パリ協定の中での「国別目標(NDC)」の定義です。

パリ協定の第3条では、国別目標は、緩和だけではなく、温暖化の影響に対する「適応」対策、(途上国への)資金・技術・能力構築「支援」等も含むということが書かれています。

これを受けて、一部の途上国は、「このガイダンスには、他の項目も入れるべきだ」という主張を展開しています。

こうした議論の背景にあるのは、個別の議題項目の中での技術的な論点や解釈を超えた、このパリ協定の「ルールブック」全体の中での重点の置き方というより象徴的・政治的な問題です。これまでの気候変動対策の議論では、緩和に関する議論に重点が置かれがちでした。これに対し、途上国は、パリ協定の下では、適応や(途上国への)資金・技術・能力構築支援にも、もっと重点を置きたいという意向を持っています。

先進国の側には、「緩和」の部分をしっかりと作っていくことによって、排出量が増えつつある途上国にも、排出量削減の負担をもっと負って欲しいという意向があります。

途上国の側には、先進国がこれまできちんとやってこなかった削減努力の責任転嫁を安易に受入れるのではなく、「支援」をきちんと引き出したいという意向があります。

こうした双方の思惑が、詳細ルールをめぐる、一見技術的・専門的な交渉のそこかしこに表出することで、交渉を難しくしています。

ただ、実際の対立点は、ここで説明したような「先進国と途上国」という単純な二項対立的な図式ではもはやなく、ここにさらに、それぞれのグループ内でも、重点の置き所(「適応」対策を重視する途上国など)があり、議論はさながら複雑な方程式を解くがごとこくとなっています。

「2018年の促進的対話」について進む協議

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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